1381.隕石が降り、目を開けるとパーティーが始まっていた。「もう何百年も前からやっていたんだよ」と古風な紳士が恐竜の足元でグラスを掲げ、絶滅した生物達がのんびりと寝そべっている。燃える街を抜けて海へ行くと水上では誰もが愛の名の下に踊っており、生産性を失った私達を覆う星空はただ美しかった。
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1382.青い夜、金平糖を器へ出していると星が転げ出た。振ると切れた電球に似た音がして、すっかり冷たくなったそれをどうしたものかと眺めていると「おや、そこに居たのかい」と声がして背後から白い手が伸び星を摘んだ。振り返ると誰も居らず、いつの間にか開かれた窓には季節外れの金木犀が置かれていた。
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1383.君の心電図に鯨が泳いでいた。海月、蛸、深海魚に沈没船。止まる頃には床一面に白黒の海が投げ出され、それから君の夢を見る時は必ず海にいる。君はすっかり本物の海になった心電図内を案内して、覚める前に必ず私を沖に送るのは君らしいが、朝日を浴びた君が一人海へ戻っていく姿は未だ慣れていない。
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1384.月以外見る会をした。給水塔や水門の窓、公園の時計に近所のおばけ、深夜にしか上映しないプラネタリウム。月明かりの中私達は神様にしか見えないインクで詩や物語を街中に書き殴り、数えられ終えた羊達を撫でていると「しまった、朝が来るぞ」と君が言うので、私達は笑いながら夜の中へ逃げていく。
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1385.ある晩、砂漠の空に吊るされた古い空中天文台が崩壊した。ぱしゃりという寂しい音を聞いた詩人が見に行くといつの間にか出来た薄荷の香り漂うオアシスに、かつて人間のものだった機械達や粉々になった反射鏡が水の底で音もなく輝いており、小さく開かれた会見では月明かりを溜めすぎた為との事だった。
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1386.間違い続けているから帳尻合わせのダンスを踊るんだ。ノイズだらけの世界にて伸ばした手は思った程長くはないから折れたヒールのまま陽気なステップを踏まなければならなくて、文字化けした幸福論、警告ポップが鳴り響き『ようこそ』がさよならの様に聞こえてるから、私達、人工呼吸似の口づけを今。
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1387.蚤の市にて見つけた小さな瓶の中にはキリンが入っていた。どうも大昔に魔女が作った楽園らしく、標本のように美しい植物に囲まれる中ガラス越しにこちらを見つめるその瞳は楽園が無限ではない事を知っている様で、蓋を開けたら出せるのかと店主に聞くと「その中に林檎の木は無いんだよ」と首を振った。
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1388.北の海にて月が打ち上がった。テトラポットより少し大きなそれはどこか骸骨の様で、調べようと天文学者が切った途端に甘いレモネードが溢れ出し、「どうも月とは檸檬の事だったらしい」と金色の断面を見て呟いたのだが瞬く間にレモネードは海へ流れ一つ分の水月になり、香りだけを残し消えてしまった。
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1389.流れ星が直撃し君がバラバラになったので破片を回収する。幻肢感覚がするらしく木にぶら下がる右腕や標本にされた脊髄、心臓、肋骨などを探し出し左目以外が揃ったが「右目があるから」と笑う君は予想通りで、一人部屋の中、隠していた瓶の中を見つめてはもう少しだけ君の瞳に写りたいと思ってしまう。
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1390.夜が落ちていた。「昨晩明けそびれまして、昨日と今日の夜は別な為帰る場所がありません。どうか海に流して下さい。海は夜と似ていますから」と泣くのでボトルに掬い、海へと連れて行くとそれは大きなシーラカンスに姿を変え、昨日まで星だったという白い鱗を一枚くれると、もう姿は見当たらなかった。
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