1331.眠れぬ夜、月明かりの先で白電話が輝いていた。数字はなく0の代わりに三日月マークがあり回すと『はい、こちら電話懺悔室です。ピーという音の後に告解をどうぞ』と声がした。ピー。私は呟く。ぷつぷつと、忘れていなかった様に。『聞き届けました』と声がして気付くと電話はなく、夜が明ける所だった
・・・
1332.泥と息吹と罪で作られた私達の白い白い骨は今日も暗い体の中で、原始の夢を見ているらしい。雪の降る深海。未明の青に沈む林檎。無花果の中に入っていた赤い星は割れた途端に、銀の煙を吐いて死んでしまった。空に落ちた昼の月。天文学者に分けてもらった寂しさは金平糖の形をしていて、全ては思い出。
・・・
1333.その忘れられた地下帝国には作りかけの三日月が佇んでいる。地割れによって生じた切目の側でそれは本物の月明かりを受けては足場の中で手を伸ばす様に金の光を散らしている。表面を覆う金属のレシピには『月光』があり、月光の集め方を知らない私達にはその三日月が本当に偽物なのか、分かりはしない。
・・・
1334.瞬きの度に目蓋に映る君の姿は研磨されて丸くなり、遂に白いベッドの上に座る真っ赤な林檎になってしまった。細い指も、乾いた唇もないそれは命だった頃のように美しく、庭に植えた林檎の木に君の名前を付けたよ。拒食症だった君の骨は、誰も知らないポケットの中で今日も無垢な色のまま沈黙している。
・・・
1335.今日は月が綺麗らしいのに私の空には見当たらず、私は一人、月を探しに行くことにした。銀のケトルの中、古い森の泉、コンクリートの白い隙間、オットセイの宝箱。どこを探しても見当たらず、家に帰ると窓辺のラピスラズリから青い光が差していたので摘み上げると、模様の中に無くした月が輝いていた。
・・・
1336.今日見る筈の夢が盗まれたらしい。舞台は洋館で、窓に設置された怪人のギミックや探偵がふっつりと倒れる中、君を見つけた。陽の中で眠る君は永遠の様で、ベッドに染みる強烈な血の色に思わず微笑んでしまう。忘れないよ、今日は君の命日だ。ベッドの下に隠された夢の台本の事は知らないふりをしよう。
・・・
1337.裁縫箱を開くと何処からか懐かしいダンスミュージックが聴こえ出した。耳を澄ますと針山かららしく、虫眼鏡で覗いてみると針の上で天使達が踊っていた。同じ顔をした天使達は分裂する様に増えては踊り、また溶け合って行く。暫く覗いているとサングラス姿の一人が此方に気付き、悪戯そうに手を振った。
・・・
1338.ドロップ缶から青い光が洩れているので覗いてみると、中に月が見えた。博物のように遠く張り付いたそれは淡く、夜たらしめる光を投げかけている。偽物の横顔で笑うそれは覗かれている事も閉じ込められている事も全て知っている様で、缶をひっくり返すと出て来たのは宝石模様のない、丸い薄荷飴だった。
・・・
1339.問1.月明かりに沈んだ街に溢れる数えられ終えた羊達が向い続ける楽園への距離と、水門の中で流れ着いたボトルレターに返事を書く仕事をしている少年の喪失感との関係性は一体誰が求められようか。壊れたプラネタリウムが本当の夜空を見る時、私は君に神話として愛を語ろうと思う。答えで待っています。
・・・
1340.カレンダーによると今日で地球が終わるらしいので私は海へ行き、ベッドとお菓子を広げて映画を観る事にした。「人工楽園だ」と君は笑い、零時丁度、波が凪ぐと共に世界中の光が消えて異様な眠気が降り注いだ。月明かりの中眠る世界で私達はいつか青い宝石になれそうだと思ったが、君はもう眠っていた。
0コメント