661.プレリードックと散歩をした。
少し体を屈め手を繋ぎ、深夜の誰もいないショッピングモールを歩いていた
彼は足が短く、抱えた方が優しいのではと思ったが、わざわざ手を伸ばした処をみると、きっと同じ様に歩く事に意味があるのだと思う
ゆっくり。
屈む私と懸命に二足歩行する友人の背中を月光が暖める
・・・
662.真黒の鑑識標識板は彼女が投げ捨てた携帯電話の場所にあり、彼女は今でも空に浮かんだチョーク・アウト・ラインの中を泳いでいる
「死んでるの?」
『いいえ私は自由だから』
「かわいそうに」
『いいえ貴方は重いから』
金魚の様に涼しく笑う
うなだれる私の足には携帯電話が括り付いている
・・・
663.溜息の様な色の濃い陽射しの中、私は己の為の鎮魂歌を造る。
橙に包まれた砂漠を小さなスコップで掬い上げるような、乾いたパウンドケーキを優しく裂くような、そんな遠いノスタルジイを魂の揺り籠に贈る。
儀式の終わる頃には陽は眠り、私の魂も棺桶に入り込む。嗚呼、今日の日よ、永遠あれ。
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664.その石は遠い雪国の、氷が張り、泥の静かになった湖の平穏を化石にした様だった。
曇る水晶の下に黒紫の上品な靄が掛り、そこから同色の柔い針が上へ伸びている。この石は暖かな所から来たのだが、であれば夏国の、冬への憧憬が結晶となったのだろうか。私はこの雪景色を転がし、遠い国に心を向けた。
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665.「輪廻解脱が生の目的ならば、生物をこの世から無くせばいいじゃないか」
狂信者達は楽園での再会を約束し、核ミサイルのスイッチを入れた。
『だがこのやり取り、遠い昔にもした気がするのは何故だろう…』
「また生物は滅んだか」
更地になった地球宛に、何度目かのアミノ酸入り隕石が発注された
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666.藍下黒が透ける夜、古い真空管ラジオに光を灯す。
針が踊り、次第に讃美歌が流れ出すのだ。ノイズの包みから段々と姿を現したのはイノセントな歌声で、しかし既に神の御許へ歩んだ信者の声なのだろう。
その供物を聴く私はもしや神なのではと錯覚する程で、私はそれを聴きながら、炭酸と共に夜を更かす
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667.夜を過剰摂取し過ぎたため、私はこの様に真黒に染まってしまいました。
昼に歩けば影と言われ、夜に歩けば飽和する。とぷとぷと夜に、黒に、宇宙に分解され、最早誰も私も、私を私だと思い出す人はおりません。
ですが一つ、私の輝く白目だけが私を留める杭となり、光る度、私を現世へ突き刺すのです。
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668.貴方の亡骸は遺言通り、小さく真青なダイヤになりました。指輪にして売り旅に出してと仰いましたが、もう暫く私と共にいる程度の我儘は許してくださいな。そうして最期は対の指輪を作って旅に出ましょう。一緒ならもっと楽しい旅になりますよ。エエきっと。嗚呼、楽しみねえ
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669.浴槽は真紅であった。
風に揺れるは足であった。
靴には呪いを込めた遺書があった。
枕元には多量の睡眠薬があった。
真新しい土から制服がはみ出した。
電車は真っ赤に止められた。
今日も何処かで不特定多数の同一少女は死んでいる。
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670.「寂しい音」
首裏から咽ぶような寒気のする音がした、気がした。
『寂しい夜」
夜空が垂れる。巨大な何かが瞬きをしているが誰にも目視できない。
『「嗚呼、寂しい」』
震え木霊する叫びは大気に溶け同化し、共鳴する。さみしいものとさみしいものはたがいのそんざいにきづくことができない。
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