「私達は、どこまで一緒に居れるのかしら」
僕は今、とある蒐集家の家に来ている。
その家はまるで病院の様に白く、余計の無い白熱灯が優しく壁を光らせていた。大きな窓は、点々と置かれた観葉植物の為だろうか。
「いらっしゃい、こちらよ」
そう言われ、奥の部屋へ進むと広い部屋があった。壁一面には額縁に入った何やら機械の部品が飾られている。下には使用期間だろうか、西暦が恭しく書かれていた。
「これはね、ロボットのコア。心臓だよ」
電池、心臓、コア、命の源
役目の終えた無機物なそれはあまりにも生命とはかけ離れており、しかし埃一つ付いていない様子を見ると彼女の並々ならぬ愛情を感じ取れる。
ふと一つの壁に目が留まった。
他の壁と同じ様に額縁が飾られる中、真ん中に眠った女性の写真があったのだ。毛先をゆるく躍らせたショートヘアのその女性はお腹の所で指を組み、そして写真一杯に広がる花の中で目を閉じている。下には一番若い西暦が書かれていた。
凡そ生命を感じる事の出来ない写真であった。
『こんにちは、お客様かしら?』
扉から顔を覗かせたのはその女性だった。「おはよう」と彼女が女性に抱き着き、二三話をしてまた女性は廊下へ帰って行った。
女性が動く度に聞こえる機械音に対し、少しばかり疑問を抱いていると違う部屋へ促された。
「ここは彼女の部屋よ」
そこは箱庭に面した部屋で大きな窓が開け放たれ、白いカーテンが舞っていた。部屋には一つ、ひんやりと冷えた白いベッドが置いてある。
「彼女はね、ロボットなの」
窓を閉めながら彼女が言った。
「さっきの壁に飾ってあったコアは、かつて彼女の心臓だったもの。
そして生きたアルバムでもある。」
「彼女はね、直せば治るの。でも段々と、機能性というか、直すたびに記憶が曖昧になっていって、きっともう彼女は昔の彼女とはなにかが違う。
私の名前を忘れてもいい。でももし、次目覚めたとき私に対する関係の何かを忘れていたら、私は耐えられない」
「・・・もしロボットが死んだら、その魂はどこへ行くのかしら?」
「私の将来行く場所で、私を待っていてくれるのかしら」
彼女が顔を覆う。
「もし死んだ先で彼女が居なかったと考えると恐ろしくて、だから私は彼女を直すしかないの。」
急がなければいけない、と呟いた。
「仕上げに一つ、教えてあげる」
帰り際、彼女がそういった。「今ね、魂の変換方法について研究しているのよ。まず私の魂を電子に対応できるよう変換させ、ロボットへ移行させる。そして抜け殻になった私に彼女の自意識、魂を移行させる!
そうすればきっと、同じ人間として同じあの世へ行けるはず。
もしできなくても混沌とした魂はそれなりに近い場所に行けるんじゃないかしら。もし離れてしまった時のために、私の入るロボットは耐久性と機敏さに特化したものにしたの。」
じゃあね、と仲良く手を振る二人は姉妹とも友人とも、恋人夫婦とも似ており、ただそこには愛と命があった。
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