371.十月の夕暮れ、神社へ立ち寄ると、その地面に影だけの車輪が写っていた。
空回るその車輪が悲しくて、私は指でチョキを作り適当な所を切ってやると嬉しそうにずっと遠くへ行ってしまった。
十一月、また地面に車輪の影が見えた。
ここの神社は出雲大社と近い。
神議には間に合ったのだろうか。
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372.廃校の校庭にて、五人の子供の遊ぶ影だけが映されていた。
縄跳び、鬼ごっこ、ケンケン…
ふと気付くと、その影が校庭の中央に集まりそこを指差している。
地面を掘ると缶箱があった。どうやらタイムカプセルの様だ。
開けると六人分入っており、最後の一つには「隠れんぼ」と書かれていた。
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373.私は人が亡くなる前日になると、その人が骸骨に見える。
ある日、突然そこら中の人全員が骸骨に見え出した。勿論、ガラスに映った私の顔も。
その光景はハロウィンの仮装よりも不気味で、しかし統一されたその非日常はなんとも美しく、また楽しく思えた。
その日の夜、巨大隕石のニュースが流れた。
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374.俺の周りにはたまに友人や家族の偽物がでる。それは言葉巧みに俺を誘導し、自殺を促してくるんだ。
姿形声は同じ。ただ一つ違うのは、右目と左目が逆な所だ。
辛い苦しい時にそっと俺の側に来て、「ここに包丁があるよ」と言ってくるそいつは、目頭に皺を寄せ、笑う。
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375.宇宙の果てが観測された。
冒険家は挙って宇宙船に乗り、考えを語っている
全ての星を追い越し宇宙埋葬も慣れた頃、外に変化が現れた。
生物が宇宙を泳いでいたのだ。次第にそれらは巨大な魚に似た生き物に変わった。
「見ろ!宇宙の果てだ!」
何かに当たったその瞬間、チャプンと間抜けな音がした
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376.子供の頃、倒れていた河童を助けたら誰かの尻子玉をくれた。
それは角度により真珠の白さだったり、虹の入った水晶の様だったりと不思議な美しさのある、すこし柔らかい物だった。
しかし一つ疑問がある。
一体誰の尻子玉なんだ。
いずれ持ち主に返した方がいいのだろうとは思っている。
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377.ある雨上がり、街にチンドン屋が現れた。
鐘を鳴らす女に和太鼓奏でる大男、真ん中には枡を傘に乗せ回す少年だ
枡からは絶えぬ事なく花弁が溢れ出る
「さあさ銭は要りませぬ!解るでしょう解るでしょう…」
やがてその団体はホクホク顔で観客から貰った大量の油揚げと共に、山へ帰って行った。
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378.赤い靴の少女は抗う事を諦めて、靴の踊りに従い始めた。
ワルツにタンゴ、フラメンコ
靴は先程以上に意気揚々と踊りだし、ならばと少女は手首を舞わした。
人集りを割り進む少女
それにつられる音楽隊
カーニバルは山越え谷超え砂漠を超え、遂に靴は一層美しく舞いそれからパタリと動かなくなった。
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379.目を開ける
目を閉じる
段々とその意味をマドラーで混ぜるように曖昧になってゆく世界
自分を愛する準備は出来た
今からは大人の自由時間
『夜の訪れ』
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380.自分は誰にも愛されない求められないと自分に言い聞かせたときの、
その言葉に対し「これが現実」と受け入れたときの身体が随分と重くなり、胸元が冷たく透き通り、その冷たさが涙となって出てくく感じがとても心地いいのです。
きっとこれも自傷行為と同じなのでしょうね。
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