271.「私はもう死ぬ。だから死ぬまで私の思い出話を聞いてくれないか」
そういったお爺さんは色々なことを話し始めた。
目を見開き、身振り手振りを交え、
息もつかせぬ冒険話や赤面必須の色恋話、時には怖い話も「あぁそういえば」と話してくれて、
気付いたらもう10年ばかり経っていた
・・・
272.『パラレルワールドの私たちを助けに行ってきます』
彼女がこんな書き置きを残して消えてしまった。
きっと彼女なら、ちゃんと助けられるだろう。
でも僕は少し寂しいので、早めに帰ってきてほしいなあ。
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273.地球が崩壊した。
隕石は降り、割れた地面から出たガスが爆破し僕の会社は木っ端微塵だ。
きっと地球は助からない。
逃げ場なんて死以外存在しないのだ。
それでも気付けば僕は崩壊した街の中、君の形見の写真を持って走り出した。
今度こそは最後まで守るから。
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274.夢を見た。
私は鳥居の見える高い所から見下ろし、行き交う人々を愛しいやら誇らしいやら、そんな気持ちで眺めていた。
風が気持ちよかったのを覚えている。
後日旅行でとある神社に行くと大きな神木があった。
それはどこか覚えがあり、「久し振り」と呟くと、木は手を振るように少し揺れた。
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275.宇宙の淀みから垂れた膿は水平線へ降り立ち、それは三人の悪魔となった。彼女らは産まれを喜び、月の光の下、波の揺れと共に踊り始めた。星を瞬かせた黒と紺のドレスを纏い、目元をレース現世と遮断させている。白い肌に浮かぶ唇の赤だけが、彼女らの純真で確実な悪を示していた。
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276.臨終を迎える花がいたので見届けようと隣に座った。
「私を…花だと思いますか?」
『違いますか?』
「いえ…いえ…」
花の言うことはわかった。色は失われ顔を影にし、ただ只管に死を待っている。
「アァ…」
そう香りを漏らし、花は亡くなった。
土に埋める中、その花は未だ確かに花であった。
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277.いつか殺した自分の墓を建てねばならん。殺した自分にしっかりと君らの死は無駄ではなかったと伝えねばならん。君たちの死によって今の立派な私があるのだと、向き合い花を供え手を合わせねばならん。
私は私という民衆の一塊りなのだ。
私は私を纏める王であり私を動かす神なのだ。
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278.大丈夫 この世は所詮、何かの一瞬の中なのさ
満潮の間の泡沫
春に生まれた花の溜息
少女のあくびの一雫
老人のみた夢の窓の外
それが過ぎれば全ては消える
無残な僕も 憐れむ君も
ここから見える、美しい夕日も
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279. 花を一輪摘んだ。
すると隣に咲いていた花が泣き出すではないか。
どうもこの花の事が好きだったらしいが、想いを告げる前に私に摘まれてしまったという。
「恨めしい。でも私では貴方を殺せない。ならば私を同じやり方で殺して、そして一緒に飾ってくださいな」
花の泣く声が響く。
・・・
280.それは宇宙だった。
眼球の奥深くから迫り来る闇は鼓膜を淡く痛くした。翻すとキラリ光る星が見える。それが星か深海の泡沫か、走馬灯なのかは今一解らなかったが深く潜る海の様な、また一種の期待の様なものを感じ、私はこの引力に身を任せたのだ。
『死にゆく』
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