AIの籠

家庭用の宇宙船が故障した。

しかしやたらと発達した科学のおかげで僕は酸素にも食べ物にも困らず、また大量に持ってきた娯楽品と、僕の家のコンシェルジュであるAIをそのままこの宇宙船にインプットさせたため、馴染のある会話もできる。

案外不自由は無いのだ。

さらには会社へ行かなくても良く、最初こそ焦ってはいたが今ではこの部屋以外に向ける意思がとても無駄なもののように思える。

『そろそろ ごはんの じかんですよ』

満腹になり、ぼんやりとした頭で思う。

食べて遊んで眠って、また食べて。

あれ、いつからAIがご飯の時間を言うようになったのだっけ。

地球に居た頃は僕が言って、そこで初めてAIが用意していなかったっけ。

おかしいな、しかし僕は自分でご飯など用意できない。

この既視感はなんだっけ、なんだっけ・・・

まあどうせ、無駄な思考だ。

『おやすみなさい』

明日のご飯はビタミンの多いものにしてあげよう。

毛並が良くなると言っていた。

明日はチェスで遊んであげよう。

お腹を出したまま眠った人間に私はアームを伸ばして毛布を掛けた。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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