「サテライトは」

可笑しな夢を見た。夢の中。俺は家のベランダで星を見上げていた。やがて俺の隣に母親が来て、二人して同じ様に無言で星を見上げる。

急に今まで固定されていた星が流れ始めた。無意識下で何故かこう思う。

「サテライトだ」

「サテライトだね」

俺と母の声が重なった。

サテライトって何だ?疑問に思う。だが疑問に思う俺とサテライトと言った俺は別の自分で身体の主導権はあちらに委ねられている。

やがて右耳に違和感が現れた。蠅が飛び交う様な耳心地の悪い音。最初は耳鳴りかと思ったがどうも違う。この音は母のいる方向から鳴っているのものだと気がついた。

俺の首がやがてその方へ回り始める。ぐりぐり、ぐりぐり。とやけに緩やかに首は回っていく。

母の顔がやがて視界に入って来た。嫌な予感がする。背中が、血の通わなくなった腕の様にゾワゾワした。

だけど俺の首は止まらない。回っていく。母の顔が全て視界に入った。その顔には何処も可笑しい所は無かった。

自転する惑星の様に横に回っているその両目を除けば。

母がニコリと笑い俺の頬も強制的につり上がる。

次の瞬間。ごきっ。と、180度視界が回転した。

…目を覚ます。ひどい冷や汗。真冬にこんな量の汗をかいたのは初めてだった。


コンコン。と部屋の戸がノックされる。大丈夫?と、廊下から聞こえたのはいつも聞いている優しい母親の声だった。

なのに。背筋が凍る。幻聴か、蠅が翔ぶ様な音が聞こえる。母が続けて言った。

「サテライトは綺麗だった?」

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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