着物の女性

まだあたしが産まれる前だけど、母はそれを自分の子供だとわかっていて、

「返して!返して!!!」と言いながら夢の中で必死で追いかけていたと。

これだけなら出産前ノイローゼだったのかも、で終わるけど、

ここからがあたしの体験。夢じゃないです。


小さい頃、家の階段でよく遊んでいました。

うちの階段はとても急で、今思うと無茶な遊び方をしていたw

階段の一番上から下から二段目を狙って飛び下りるなど。

忍者に憧れて、ずっと階段遊びをしていました。

幼心にこれは危ないと思っていたけど、自分は大丈夫だって確信があった。

なぜかというと、何回か体のバランス崩して失敗だ!!と思っても、

自分は無傷で階段の一番下に立つことが出来たからです。

バランスを崩した時、体がふわっと浮いて誰かに運ばれているみたいに着地できていました。

姿をはっきり見ることはできなかったけど、誰かが自分を守ってくれているとわかりました。

そしてその人はあたしを好きなんだ、って知ってた。

かぎっ子で近所に友第もいなくて寂しかったので、誰かが同じ家にいることが嬉しかった。

着地した後に、「ありがとう」とよく言ってたなw

でもその誰かとはずっと一緒にいることはありませんでした。


始めて姿を見た時。そしてそれがお別れの時でした。

いつものように階段で遊んでいると例によってバランスを崩し、あたしの体はまた宙に浮きました。

その時、自分が腕に抱かれているのをはっきり感じた。

白い着物を着て、黒い髪をよく時代劇に出てくるみたいな形に結って、とても寂しそうな目であたしを見ている女の人。

奇麗な人でした。

間近で一瞬やっと見えた。

この人にいつも助けてもらってたんだな、と思った時、

その人がその顔のままあたしを離しました。


その時母親が玄関のドアを開け、あたしが目の前の階段からありえない角度で落ちて来るのを発見。

母親は慌てて手を伸ばしてあたしを受け止め、腰をいわしてしまいました。

今は治ってますが本当に申し訳ない。

自分は無傷だったのですが怖くて泣きました。

その時はっきりと声が聞こえた。

「さようなら。達者でね」

もう姿はどこにも見えませんでした。

怖さとは別にとても悲しくなりました。

あの人はどこかにいってしまうんだ、また自分は独りぼっちになるんだってことがとても寂しくて、次は怖さよりも寂しさで泣きました。


それから、もう階段で遊ぶのはやめました。

あの人が最後にあたしを離したのは、

あたしを連れていこうとしたのか、母に返そうとしたのか、それはわかりません。

いつもなら帰ってこない母が、あの時間にタイミングよく帰ってきたのもかなり不思議だし。


その体験のずいぶん後、あたしが少し大きくなった時に母から夢の話を聞きました。

なんとなくあの人だ!と思ったけど、怖さは感じなかった。

母には言えませんでした。

これは夢じゃありません。今もはっきりと思い出せます。

あの人の寂しそうな顏も最後の言葉も。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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