時間泥棒

「あの、すいません、少しだけお時間頂けますでしょうか?」


喫茶店にて友人を待っていた時、私は男に声を掛けられた。

丁度友人が電車に乗り遅れた事と、またその男がキチンとした身なりで背も高く、品も良さそうであった事から

私は二つ返事で答えたのだ。

「ああよかった!一時間ほどです、よろしいですか?」

「ええ」

私が答えると男は嬉しそうに私の手を握り、

「ありがとうございまず。貴女のおかげで私の時間が増えました。」

そう言った。


ふと気が付くと男はおらず、私は一人、異様に冷めた紅茶を目の前にしていた。

キョロキョロと辺りを見渡すが男の姿は無い。

ブーンと携帯電話が震えた。

友人からだ。

「今どこにいるの!?もしかして帰っちゃった?」

いつ駅に到着したのだろうか。

「全然電話出てくれないから怒ったのかと・・・」

焦る友人を宥め、電話を切った。

携帯電話の画面を見ると友人からの謝罪のメール、そして10件程の着信履歴が目に入る。

私は眠っていたのだろうか。

あの男は白昼夢の住人だったのだろうか。


男と出会った時間からきっかり1時間進んだ時計を見つめ、私はうーんと唸った。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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