田所さん(仮)

俺が小学校低学年の頃に、近所に不思議なおじさんが住んでた。

その、おじさんの名前は、仮に「田所」さんとしよう。


田所さんは謎の機械(ガラクタ?)を発明する、自称「発明家」。

一度開くと10分以内に自動的に閉じてしまう傘。

殺虫剤をより広範囲に噴射するノズル。

レトルトカレーの袋を自動的に開けてくれるマシーン。

とか、役に立つんだか、よく分からん微妙な物を色々作ってた。

粗大ゴミ回収の日とかは、ゴミの中から使えそうな物を持って帰る。

近所の奥様方からは、ちょっと嫌われ者だった。

でも、田所さんは子供たちには人気者だった。

謎の機械を見せられて、その仕組みを教えてくれる。

ちょっと変だけど、面白いオジサンって感じ。

しかし、実は田所さんには、すごい秘密があったことを俺たちは知っている。


その日、小学校が終わって、仲良し3人組だった俺たちは、田所さんの家に走ってた。

なぜなら、前日に「君たちにオジサンの秘密を教えてあげよう」って言われてたからだ。

使えるかどうかは二の次で、スゴイ物を発明する田所さん。

一体、オジサンの秘密とは一体なんなのか。

期待半分、ガッカリに備えた気持ち半分。

田所さんの家の前に着いた俺たちは、焦る気持ちも露わに呼び鈴を押す。

玄関の向こうから足音が聞こえて、ガラガラガラと引き戸が開く。

「よく来たね、約束通りオジサンの秘密を見せてあげよう」

そんな感じのことを言われて、いつも通り居間に通された。

ごく普通の部屋、いつも発明した機械を見せてもらっている一室は、相変わらず雑然としている。

すると、田所さんはおもむろに押し入れの引き戸を開けた。

そこに広がっていた光景は、押し入れの中じゃなかった。


透明のカプセルみたいな膜で包まれたような、ツルツルとした空間だった。

膜の向こうには無数の星のような光が散らばっていて、まるで宇宙のような場所だった。

なんだ、この部屋ーって感じで、空間に入った俺たちは、膜にペタペタ触っていた。

プラスティックみたいな質感で、コンコンってやるとグニャッとへこんだ。

しばらくワイワイやってると、背後から田所さんがやって来て、

「オジサンは、明日には宇宙に戻らないといけないんだよ」

というようなことを言われた。

なんで?どうして宇宙に戻るの?とか聞きながら、俺たちは大興奮。

「オジサンの役目が終わったからだよ」

という感じの返事だったけど、もっと難しいことを言ってたような気もする。

その話より、当時の俺たちは不思議な空間に夢中だった。

すると、田所さんは透明な床から生えている、透き通ったタケノコみたいな棒のような物を指さした。

「これに乗って帰るんだよ」

すると、タケノコの先端からジィィィという鈍い音が聞こえてきた。

「こうやって、少しずつ帰って行くんだよ」

そんなニュアンスのことを言った田所さんは、何だかちょっと寂しそうだった。

「この話は秘密だよ」

と口止めされて、俺たちは各自の家に戻った。


あの空間は一体なんだったのか。

そして、タケノコみたいなのから出たビームで、どうやって田所さんは宇宙に帰るのか。

明日、田所さんの所に行って、それを聞いてみよう。

そんなことを思いながら、眠りについた。

翌朝、学校に行って昨日の出来事を仲良し3人組で話しあって、今日も田所さんの所に行こう!ということになった。


学校が終わり、駆け足で田所さんの家に行くと、何やら騒然としている。

何事だろうかと家に近づくと、白いちょうちんが掛けられていた。

何となく、家に入れる雰囲気ではなかったから、今日のところはここで解散。

家に戻って、田所さんが亡くなったことを聞かされた。


あれから、20数年の時が流れ、俺は思う。

もしかしたら、田所さんは本当に宇宙に帰ったんじゃないか。

星空を見上げる度に、あの宇宙のどこかを旅しているかも知れない田所さんを想像する。

一体、田所さんは何者だったのだろう。

ただの、ちょっとオカシイおじさんだったのか。

それとも、何らかの理由で宇宙からやって来ていた旅行者だったのか。

嘘とか、記憶の改ざんだと思われても構わない。

俺も、自分の記憶に眉唾なんだから。

ただ、仲良し3人組と居酒屋で盃を交わす度に、その話が話題に上る。

夜空は固く口を結んで、俺に事の真相を話してはくれない。

あと、田所さん、話しちゃったよ、ごめんちゃい。 

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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