あったさん

小学校4~5年くらいの夏休みだったかな?

夜の7時くらいに、夏祭りの盆踊りの練習で母と一緒に家の近所の工場の駐車場に行った時の話。

うちの地元では夏になると山車を引っ張って町中を練り歩いて、ちょっとした広場とか空き地とかに着いたら、2~3曲盆踊り?みたいなのを輪になって踊るっていうお祭りがある。

正直なところ、糞暑い中を延々歩かされる祭り自体は苦行でしかなかったんだが、

親公認で夜に出歩ける踊りの練習は毎年の楽しみだったんだよ。

よく俺と同じように親につれられてきた友達と一緒に、踊りの輪から脱け出して、

真っ暗な駐車場の奥の方とその脇にあった畑(梅の木が植えてあった)を使って遊んでたっけ。


ある晩、いつものように暗がりで、鬼ごっことかくれんぼを足したような遊びをやってたんだ。

俺が鬼で、30数え終わって、さあみんなを探すかなって感じで駐車場から畑側に向かおうとした時だった。

隠れたはずの友達が泣き叫びながら畑の方からこっちに全力で走ってくる。

俺「なんだよ?なんかあったのか?」

友A「おgdjqiajumdjANat0pw!!!」(ガン泣きしながらワケわかんないことを喚いてた)

友B「Aがおばけ見たんだって!俺見てないけど!A見た!見たんだって!」(なんかすんげえ興奮してた)

友C「???」(二人が駐車場側に駆け出したから、とりあえず追いかけたらしい)


その後、AとBを落ち着かせて話を聞いたら、

Bが言うには、最初AとBは一緒に納屋っぽい小屋の裏に隠れてたらしい。

けど、Aが「二人一緒じゃ見つかるから、奥に行くわ」って梅林の奥の方に歩いてったんだと。

Bがそのまま小屋裏に隠れてたら、奥に行ったAの悲鳴が聴こえた。

ややあって、泣きながらこっちに走ってきたAに抱きつかれたんだとか。

Aは泣きながら「おばけ!おばけがでた!」とか言ってたらしい。

Bはとりあえずみんなと合流しようと考えて、駐車場に行こうとしたそうなんだが、

その時、二人の直ぐ近くの梅の木が急にガサガサガサッ!って揺れたんだそうだ。

それでBもパニック。二人して全力疾走してきたんだと。


Aが言うには、梅林の一番奥にある、作りかけのブロック塀にブルーシートが掛けてあるとこまで行ってたらしい。

そこでシートの下に隠れようとしたところで、ふと見られてる感じがするのに気づいたと。

辺りを見回したら、梅の木の上にでっかくて白い、牛と芋虫のあいのこ?みたいなのが居て、人間みたいなニヤニヤした顔でこっちを見てたんだそうだ。

その後は、さっきBから聞いた通り。ガン泣きで全力疾走。


その日は遊ぶのやめようってことになって、みんな大人しく踊りの輪に戻って親と一緒に帰った。

帰りの道すがら母にそのことを話したら、「夢でもみたんでしょ?」と笑われたのだが、

家に帰って親父にその話をしたら、

「おお!Aちゃん、あったさん(はったさん?)見たのか!良かったなあ!」とか言って嬉しそうにしてた。

なんでも、その牛芋虫?は『あったさん』とかいう古くから地元にいる福の神的な何からしい。

見た人は一生金に困ることはないし、その家もすんげえ栄えるし、ついでに出世もするとかなんとか。


今でもAとは友達だが、俺が思うにご利益は無かったんじゃないかと思う。

あいつ、今年の夏に高校時代からの彼女と別れたしな……

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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