入れ歯とばあちゃん

小3の時、畳の六畳間で一人で留守番してた時のこと。

縁側から着物きたばあちゃんが来て、隣の部屋にそうじ機をかけて欲しいと頼んできた。

ばあちゃんが俺に頼み事をするなんて珍しかったから、なんか張り切っちゃって、任せて!とか言ってそうじ機を受け取った。

そんでふすま開けて隣の仏間にそうじ機をかけた。

ばあちゃんは縁側で、俺がおどけて手を振ったりケツを振るのを見てニコニコしてた。嬉しくなった俺はホースにまたがり

「いぇぇぇい!おれ、ばあちゃんの孫!〇〇隊員飛びます!ぶいーん!」

ってぴょんぴょん飛んだら、ばあちゃんツボにはまったらしく、口開けて笑いだした。

その時口の中が見えたんだけど歯が一本もなかった。

笑い方も、こうグワッと頬をあげてない歯を剥き出しにするような感じでちょっとぎょっとした。

でも入れ歯をはめ忘れたんだな、きっちり化粧してお出かけ用の着物も着てるのにおっちょこちょいだなと思った。


そしたらチャイムがなったからばあちゃん残して鍵開けに行った。

帰宅した母さんに言われ荷物を下ろすために車に向かうと、ばあちゃんが車からでてきた。しかも着物じゃなかった。

でもたしかに縁側にいたから、ばあちゃん足速すぎ、着物はどうしたの?って聞いたら、なんのこと?今日は着物なんて着てないよという。

俺にそうじ機を頼んでもいないらしい。

あげく大丈夫かこの孫、みたいな目で見られて自信がなくなったとこで、母さんがうたた寝して夢でも見たんでしょということで片付けた。

仏間にはコード伸びっぱなしのそうじ機があったから釈然としなかったけども。


次の日、ちょっとした騒ぎがあった。

ずっと疎遠にしてた親戚一家がいきなり尋ねてきて仏壇にお線香をあげていった。

ほとんど音信不通に近かった親戚だったらしくみんな無事を喜び、近くの親戚も呼んで宴会になった。

あとばあちゃんは部分入れ歯だった。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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