捨てるな捨てろ

俺が4~5歳くらいの頃。

姉ちゃんの持ってた抱き人形(寝かせるとまぶたが閉じるやつ)が、庭のポリバケツの上に縛られて置いてあった。多分、親が捨てようと思ったんだろう。

それを見てどうにも可愛そうになった俺は、その人形を抱いて家の中に入り、捨てないでくれと親に泣いて頼んだ。


で、その人形は捨てないことになった。

だが次の日(だったと思う)幼稚園から帰り、ポリバケツの上を見るとまたあの人形がある。

そんで泣き叫ぶ俺。困ったような顔をして「じゃぁ捨てないよ?」とか言う母ちゃん。

そんなことが何回か続いたと思う。


そんなすったもんだを何回か繰り返しているうちに、

俺も子供心に『親があれだけ必死こいて捨てようとするんだから、捨てた方がいいに違いない』って心境になり、親の言うまま素直にあの人形は捨てた。


それからしばらく経って親から聞いた話だが、

俺が捨てないでくれと言った人形を、次の朝起きると、

今度は俺自身が「あんな人形は早く捨てろ。お願いだから捨てろ」と暴れたらしい。

でも捨てると、俺が拾ってくる。かなり困惑したらしい。

でも俺自身には、「捨てろ」なんて言った記憶は微塵も無い。

捨てないでと、駄々をこねた記憶しか無いんだよな~。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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