大学生の頃の俺は古い漫画を買ってきては読みあさっていた。
ある時、古本屋でまとめて買った漫画の中に
見慣れない一冊があった。
題名は「~~女」(名前失念)で、
どう考えても選んだ記憶がない。
絵柄は古い劇画風で、やたら書き込みが多く、
遠近とかデッサンなども狂っている。
内容は男に振られた髪の長い女が暴れまくるだけだが、暴れ方が異常。
近所の家に乗り込んで包丁で壁を崩したり、
家具を食べたり、振り回して通行人に投げつける。
気味が悪いのは写植で、最初の方から誤植などは当たり前で読みにくかったのに、
ページが進むに連れ、アルファベットやアラビア文字みたいなのが混じりだし、
半分も行かない内に、日本語はほとんど無くなり、ストーリーは追えなくなる。
そのストーリーも、ただ暴れるだけなので意味はないが、
だんだんおかしな描写が増える。
女が子ども連れの親子を襲い、赤ちゃんの腹を引き裂いて内蔵を啜ったりするのだが、
次のコマでは女と母親と赤ちゃんがこっちを見ながら歯をむき出して笑い、同じ言葉をハモったりする。
女が床下に頭を突っ込み、ご飯を食べている階下のおじさんと一緒に笑いながら
読めない言葉でハモる。
出てくる人物が一斉にこっちを振り向いて、歯をむき出して笑いながらハモる描写が何度も出てくる。
部屋の中で大根を切り刻んでいたかと思うと、次のコマでサラリーマンの首を絞めたりするが、また次のコマで切り刻まれた大根から吹き出しが出て喋っていたりと、もう滅茶苦茶。
描かれる人物も奇妙に歪んでいて、足より手の長い子どもとか当たり前。
線も汚いし、女以外の人物も見分けがつかない。
女だけは服装で区別が付くが。
半分くらい読んだ所で頭がクラクラしてきて、
その場に置いてトイレで用を足したんだ。
戻ってみたら置いてあったはずのその漫画がない。
探したけどどこにもない。
窓は閉まっているし、アパートの部屋のカギも掛けてあるし、
密室なのに、その漫画が消えた。
誰に話しても「ありえない、そんな漫画」と笑われるし、
古本屋の店主もそんな漫画は知らないと言う。
あれから10年以上経つが、
いまだに結末が気になってならない。
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