奇妙な利用者

今はもう辞めたんだけど、少し前にとある施設の管理人(受付?)をやっていたんだ。

基本無料の施設で、静かで冷暖房も完備してるからホームレスや中高生やヤンキー、色んな人が来るんだけど、その日の夜は特に奇妙な利用者が来た。


それは女で、まるで顔を隠すように手で顔を覆いながら建物に入ってきたんだ。

挨拶をしたけど当然返事はない。

足取りはしっかりしていて、一階ロビーの奥のソファに腰かけてた。

今日も変なやつが来たなーと思いながら仕事にとりかかって、

なんやかんやで仕事が終わったのが施設閉館一時間前。

最後に掃除でもするかとロビーにでたら、さっきの人がまだ残っていた。

この時初めて不気味に思ったんだけど、まだ顔を手で覆ってた。

これで姿勢が前のめりでうつ向き気味にでもなってたら、

なんか悲しいことでもあったのかな、とでも思っただろうけど、

そんなことはなく、姿勢はまるで見本のように足まで揃えてきっちりとしていた。

入ってきてからずっとそうしてたのかと思うと怖くなり、さっさと目に入らないところに移動して早く帰ってくれるように祈った。


適当に掃除して、戸締まりも確認してなんとか時間を潰してたんだけど、結局その女は閉館時間まで帰ることはなかった。

戸締まりしてる時に気がついたんだけど、外は雨が降っていた。

うちの施設ではでは傘を忘れた人用のためにビニール傘を貸出ししてるんだけど、

その女は鞄もなにもなく、傘も持っていないようだった。

話しかけたくなかったけど、施設は閉めないといけないので、

仕方なく「そろそろ閉館時間だから退館願います」みたいなことを言って傘を側に置いた。


そこからが異様だった。

女は傘を取ろうとしたんだけど、手を決して顔からはなそうとしなかったんだ。

じゃあどうやって傘を取ろうとしたのかっていうと、

顔をおもいっきり傘に近づけて、小指だけを虫の触覚みたいに動かして傘を指に引っかけてた。

そのとき指の隙間から顔が少し見えたんだけど、

タオル(包帯?)みたいなもの肌が見えないくらいぐるぐる巻かれていたのが見えた。

こりゃいよいよヤバイやつだとか、傘どうやってさすんだよとか思いながら、

その女が建物から出ていくのを見送った。というか固まってた。


その日はそれで建物を施錠して帰ったんだけど、

その翌日、バキバキに折られた傘が玄関の前におちてた。

これだけの話。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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