「幽霊を見たからだ!」

昔、服屋でアルバイトをしていた時の話です。

いつも同じシフトになる加藤君が無断でバイトを休みました。しかも三日間もです。

派手な見た目に反して、まじめな奴で遅刻や無断欠席は今まで一度もなく、バックれるようなタイプではなかったので、皆んなで「どうしたんだろうね?」と心配していました。

携帯に連絡をしても留守電になるばかりで、早番だった僕が様子を見に行く事になりました。

加藤君と僕は特別な仲が良いというわけではありませんでしたが、一度飲み会の帰りに泊めてもらった事があるので家は知っていました。

適当にコンビニで食料や栄養ドリンクを買ってアパートに向かいました。


アパートに着いてチャイムを押しても、何にも反応がありません。

ドアノブを回すとガチャリとドアが開きました。

僕は恐る恐る。

「加藤君!俺、中村だけど大丈夫?」

と玄関先から声を掛けました。

すると奥から

「ああ…いいよ…」

と加藤君の声が聞こえました。僕は部屋に上がり、声の聞こえた部屋の襖を開けました。

ベッドで布団にうつ伏せで布団にギュッとくるまっている姿が見えたので

「何?具合悪いの?大丈夫?」

と声を掛けました。すると無言で頭を縦に一回大きく振りました。

「熱あるの?病院連れてく?」

と聞くと、今度は横に大きく頭を振りました。僕は買ってきた食料や栄養ドリンクをテーブルに並べながら

「本当に?皆んな急に休むから心配してたよ。ご飯食べたの?適当に買ってきたから何か食べ…」

と言い掛けたところで突然


「幽霊を見たからだ!」


加藤君が叫びました。僕は驚いて加藤君の方を見ると、さっきと同じ体勢のまま

「幽霊を見たからだ!」

とまた叫びました。


「え、なに?どういうこと?」

僕はその声に心臓をバクバクさせながらベッドに近付こうとした時、ガタッと襖が開きました。

振り向くと、そこには加藤君が立っていました。

「え…」

加藤君の横には女の子もいて、2人で驚いた顔で突っ立ています。

「中村君…何してんの?」

「いや!あれ!バイト休んで…あれ?」

と困っていると、隣にいた女の子が

「勝手に休むから心配して来てくれたんじゃないの?」

と加藤君に言ってくれたので僕は

「そうなんだよ!でも、あれ?!」

とベッドを見ると、さっきまで布団に包まっていた加藤君の姿がありません。それどころか、シーツがピシッと敷かれ掛け布団も2つに折られて綺麗な状態です。


その状態に唖然としていると、加藤君が

「中村君、ごめんね。俺バイトバックれて彼女と旅行行ってたんだよ。本当にごめん!」

と謝って来ました。

僕はとっさに

「いや、そんな事どうでもいいんだけど、さっきさあ…」

と言いながら気付きました。

加藤君て昔からずっと金髪なんです。さっき布団に包まってた加藤君は真っ黒な髪の毛でした。何でもっと早く気付かなかったんだろうとゾッとしました。


加藤君は僕の様子がおかしいのを怒っていると勘違いしているのか、何度も

「本当にごめん!」

と謝って来ます。

「いや、元気ならいいよ…今日は帰るね」

と僕はそそくさと部屋を出ました。


翌日、店長から加藤君から連絡が来てバイトをやめたと聞きました。あれ以来、会う事はもちろん連絡すら取っていないので何だったのかはわかりません。

ただ不思議なのは

「幽霊を見たからだ!」

の声。あれは加藤君の声で間違いなかったような気がするんです。

本当に何だったんだろう。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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