時間がずれ込む

私(男)にはおかしな記憶?があるのです。夢なのか、突然思い出したものなのかはわかりませんが、5歳の時にふと頭の中に入り込んできた映像がありました。

記憶というのは実際に過去に体験したことであり、なんらかの、今との繋がりがあって然るべきなのですが、この記憶に至ってはどうあってもあり得ないのです。


当時私は団地に住んでいました。3歳の頃に引っ越ししてそこに移り住んだのです。

家族構成は父、母、姉です。

しかしこの入ってきた映像というのは私が戸建ての一軒家に住んでいるのです。その家の外観を見たわけではないのですが、少なくとも団地やアパートのような部屋とは明らかに違うとわかるものだったのです。


その映像とはこのようなものでした。

私が部屋に入ると、テーブルの上に置かれた籠がありました。中には灰色のウサギが一匹いたのです。

すると後ろから、「このウサギを裏山に放しに行こう」と立っていた両親に云われ、「うわあああ♡」と喜んでいました。それがだいたい5歳くらいの年齢だったと考えるのです。

身長が1mぐらいか、くらいの高さのテーブルを少し上の視点から見ることができるくらいの背丈だったからです。

また両親と言うのも今現在の両親ではなく、他人というか、違う人なのです。

こちらの家族の家族構成は父、母、姉(妹かもしれないが以降は姉と表記)です。

姉は私と同じくらいの年齢でした。


次に裏山の場面に変わります。

その裏山は、小山の真ん中を横に薙いだような場所で、片側、そして後ろにちゃんとした山がそびえている、そんなところでした。

そこに父親が籠からウサギを出しました。ウサギはぴょんぴょん飛び跳ねながら走ります。

姉と私は走り出したウサギの後を追いかけます。私が前で、姉がすぐ後ろについて走っています。ウサギはぴょんぴょん走って行きます。

そこでふと、後ろが気になって走りながら振り向いたのです。そこにはすぐ後ろを走っている姉と、その後ろで私たちを見ている両親が立っていました。また向き直り、ウサギを追いかけていたのですが、そこに切り株ひとつあり、そこへウサギがぴょん、ぴょん、ぴょん、とその切り株の上に飛び乗って私たちの方へくるっと向いたのです。

私はウサギを捕まえようと手を伸ばしましたが、もうすぐ捕まえられる、というところで動きを止めて、もう一度振り返りました。すると姉がいません。


離れたところで見ていたはずの両親もいなくなっていて、代わりに後ろの山の頂上から少し離れた空中に細長い球体でした。浮いている、というよりはそこに止まってあったのです。

左手側から振り向いて見た光景だったのですが、もう少し左を見ました。

するとそこには、先の両親と姉ではなく、今現在の父、母、妹が三人並んで立っていたのです。しかも三人の顔がなかったのです。のっぺらぼうだったのです。


そこから記憶が途絶えています。

当然今の父も母も妹もちゃんといますし、顔もしっかりあります。

私には家族がふたつあるようでした。ですがウサギを放した両親と姉の顔はまったく思い出せません。5歳の時、今の母に聞いてみたことがあります。

「小さいときウサギを飼っていなかった?」

すると、私がまだ赤ん坊だった頃、今の父が会社から大きなウサギをもらった、と言うのです。しかし私が3歳の時に引っ越す際にはいなかったので、そのウサギがどうなったかはわかりません。

しかし私が見たのは走ることができて、言葉もはっきり話せる年齢でしたから、赤ん坊というのはこの映像とは合わないのです。


怖くて詳しくは聞き出せなかったのですが、それから25年の後、夏、会社の新入社員(男)に涼しくなるような話でもしてくれないか、と冗談半分で聞いてみたのです。

すると新入社員は、「そんなこと信じてるんですか?」と言われたのでどうしてか、なぜこの話をしようと思ったのかわからないのだけれどもこの映像の話をしたのです。すると新入社員、「それは先生に見てもらったほうがいい」と言われ、新入社員といっしょに会いに行くことになったのです。先生、霊能力者に。


後日、先生の家へ向かいました。

畳の部屋に案内されて、長方形のお膳に先生、新入社員が向かい合って座り、私がその間に二人を両脇に見る形で座り、この映像の話をしたのです。先生突然こう言われました。

「時間がズレ込んでいる」

突然意想外なことを言われたので「先生、それはどういうことなのですか?」と聞きました。

すると先生は目を瞑って「それは灰色の記憶のはずだ」そして「考えるな、気にするな」と言うばかりでした。

「私の家族は何なのですか?」と言うのですが、先生はこの質問に関しては、ちらっ、ちらっとしか私の顔を見ないのです。なにか見てはならないモノが私か、私のすぐそばにあるかのようでした。

時間が来たようなので、先生の電話番号を頂いてそこを後にしました。


それから5年後。

私が35歳になった時、実家が戸建ての家を購入したというので行ったのです。そこには母が一人でいたのですが、そんな時、母が突然こんなことを言いました。

「おまえの本当のお父さんは愛媛県にいる」

市町村名まで言いましたが番地は言いませんでした。

お父さんだけではなくお母さんも妹も本当の家族ではないのだろうとは小さい頃から思っていました。

話を追求しようにも、もう一切の質問を受け付けようとはせず、別の話題に振られてしまいました。


やはり私の家族はおかしかったんです。

幾つかそういった状況が、そういったものを見てしまうような場面がありました。

まだ団地暮らしだった頃、ふすまの向こうで父、母、妹三人の話し声がするので、私がふすまをスッと開くとそれまでしていた話をぴたっとやめるのです。四角いテーブルに伏せたような形で押し黙るのです。なにか隠し事があることは一目瞭然でした。


これはみなさんの言われるような、パラレルワールドというのとは違うような気がしますし、幽霊や妖怪とも違います。

ここに書いた話以外にももっと奇怪なこともありましたが、それは控えます。

それともう大方わかってはいるのです。かれらの正体が。

傍目から見れば普通の家庭に見えるでしょうが、ええ、家族は変です。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

0コメント

  • 1000 / 1000