左足

冬の夜、星が見たくなってスポットに向って走り出した。寒くて膝が痛かったことを覚えてる。 

目的地まであと半分ってところで前触れもなくバブルシールドが外れ、なぜかメガネまで落ちてしまい目が見えなくなった。 パニック状態でなんとかUターンし、ヘッドライトの明かりを頼りに這いつくばるようにメガネを捜した。 通行する車両に助けを求めようとしたが全然車が通らないし。当時は携帯も圏外だった。 

焦せる気持ちを抑えながらメガネを探し続け、なんとか発見したが左レンズが外れていた。 眼鏡をかけ立ち上がろうとした時、視界の端に何かが映った。 嫌な感じがしたので、顔はあげず目だけを動かして見てみた。 

サンダルを履いた女性の足が見えた。 

冬にサンダルで十分不気味なのに、足首から下が両方とも左足だった。


見た瞬間に固まった。逃げたい意識はあるがうまく力が出ない。 「このままでは不味いことになる」 自分に言い聞かせ、腰砕け状態でバイクに向った。 

どうしたか覚えてないが、意識がしっかりした時は帰りのルートを走っていた。 ともかく一刻も早くその場を離れたかった。 「足を見たのはパニックだったからだ」「両方とも同じ足なんて見間違いの証明だ」と言い聞かせ、 無事に自分の住む町に入り、少しだけ落ち着きを取り戻した。

道路脇の自販機によろうと速度を落としたら、自販機の光の向こうの暗いところに例の足があった。 

落ちはない。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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