この家の子供

俺が5歳ぐらいの頃、気味の悪い夢を見た。  

俺の家の前にある駐車場に家族全員(俺と3つ上の兄と両親)がいて、何故か母親は四つん這いの恰好だった。 母親の頭頂部辺りが割れてピンク色の脳みそのようなものが見えており、 「あ゛あ゛あ゛~~~」と苦しんでいるような呻き声を上げていた。 

そのまま母親は、駐車場の傍にある長い道路の真ん中をハイハイしながら何処かへ行こうとしていた。 俺はその時、「このままではお母さんが死んでしまう」という思いと、 「お母さんが何処かへ行ってしまう」という思いで一杯になった。 

父親と兄に「お母さん助けてよ」と泣きついても、 父親は「お母さんはもう何処かへ行ってしまうんやから諦めなさい」と諭すように言うだけで、 兄も「しょうがないでしょ」と軽い調子だった。 

何故か俺はそのまま母親を追いかけずにその場で泣くだけで、 母親が見えなくなりそうな所まで行ってしまった辺りで目が覚めた。 目が覚めた瞬間俺は異様な吐き気に襲われ、トイレで嘔吐したが、 誰かに夢のことを話すのが怖くて、夢の事も嘔吐したことも黙っていた。 

その後、母親になにか悪いことが起こるんじゃないかと不安で仕方なかったが、 しばらくしても何も異変は無かったので、いつの間にかその夢の事も気にしなくなっていた。


その夢を見てからどれくらい経った時のことかは細かく覚えていないが(おそらく1ヶ月以内)、 昼4時頃、1階にあるリビングで母親と二人でリビングでテレビを見ている時、突然母親が妙なことを言い出した。 

「あなた、どこの子?」 

確かに母親はそう言った。 本当に余所の子どもにやさしく問いかけるような調子で、俺の目を見ながら言ったんだ。 俺は一瞬意味が分からなくてポカンとしたが、 すぐに笑いながら「は?何いいやるんいきなり僕○○(俺の名前)やん」と返した。 

しかし母親は、 「うちは△△(兄の名前)しか子どもおらんで」 「いきなり知らない人の家に入ってきたらダメやよ~」 「もしかして△△の友達?」 

と、俺を知らない子どもとして扱ってきた。  


さっきまで親子として一緒にテレビを見ていた母親が、突然人が変わってしまったようになってしまった。

怖くなった俺はすぐに母親を2階の自分の部屋にいる兄のところへ連れて行き、 俺がこの家の子どもの○○であることを証明しに行った。 その頃俺は兄と仲があまり良くなく、兄の部屋に入ったことがなかったので、 兄の部屋の扉を開ける時、兄に怒られるかもしれないという恐怖と、 兄の部屋がどんな感じなのか見られるという好奇心でドキドキしたのを鮮明に覚えている。 

兄の部屋の扉を開けるなり、兄は仲の悪い俺が自分の部屋に来たことを驚いていたが、 俺の話を聞くと笑いながら「いやそいつ僕の弟の○○やん、おかあさん何いいやるん?」と言ってくれて、 とても嬉しかったし、自分はこの家の子どもなんだと確認出来てとても安心した。 

しかし、母親は依然として「△△も一緒になってお母さんをからかったらダメやで」と聞く耳を持たなかった。 

それから俺と母親は1階に下りて押し問答を続け、 いつも夕飯を食べる5時になると「そろそろ夕飯の時間やから帰った方がいいんちゃう?」と言われた。 俺はもうその時になると泣き疲れて黙って俯いていた。 すると母親は「夕飯だけ作ってあげるから後は好きにしなさい」と焼きそばを作ってくれた。 味とかは全然覚えていないが、焼きそばを食べながら、 自分は本当はこの家の子どもじゃないのかとか、あの夢の所為でお母さんがおかしくなったのかもとか、 必死に考えながらわざとゆっくり食べた。 兄も一緒に食べていたが、どうでも良さそうにテレビを見ていた。

6時頃になると父親が帰ってきたので、すぐにその日あったことを全て伝えたが、軽く流されたと思う。 というかこの日のことは、何故か焼きそばを食べてからの記憶があまりない。 

ただ、3日~4日間は母親は俺のことを知らない子ども扱いして、 結局「アナタをこの家の子どもとして育ててあげます」といきなり言われて元の対応に戻り、それからは何も無かった。 


中学生の時に、家族全員で夕飯を食べている時にこの話をしたことがあるが、兄はうっすらと覚えていて、 「オカンのアタマおかしなったと思った覚えあるわwww」「お前めっちゃ泣いとったしなwww」と笑っていたが、 両親共に全くこの話を覚えていなかった。 

子どもへの罰としては度が過ぎているし、母親は割と常識あるほうだと思うし、 父親も一応小学校の先生やってるからそんなことはしないと思うんだが、あれは一体何だったんだろうか。 あの夢は何か関係があるのかと今でもふと思い出す。 

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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