そこは、白でできていた。
僕は今、とある蒐集家の家に来ている。
真っ白の壁に真っ白の家具。光も計算されているのか影が極端に少ない。
まるでここだけ色を脱ぎ捨てたよう。
そしてそこにはこれまた白い花瓶や壺、箱が並んでいる。
どうやら白と入れ物を蒐集しているようだ。
「どう?綺麗でしょう?」
家主である彼女は白い服に陶器のように白い肌。絹の様な白い髪。
これまた真っ白な人だった。
何故、白と入れ物を?
そう問うと彼女は語り始めた。
「私はね、生まれたときから肌も髪も真っ白だったの。まっさらな白紙の様で大嫌いだったわ。
だから髪を染めて色とりどりの服を着て、自分を染め上げたの。」
「でもある時、指を怪我してね。…驚いたわ。こんな真っ白の私の中にこんな真っ赤なものが流れていただなんて。私のなかはあんなにも色付いていたの。」
「その美しさったら…。」
うっとりと目を細める。
「それから白が好きになった。白はね、無色じゃないの。その奥にはきっと、深い深い色が詰まっているのよ。入れ物が好きなのはきっと、私に似ているからね。
あなたは空っぽじゃないわ。もう中に入っているものがあるのよって。」
まぁ、心惹かれたからというのが一番だけれどね。と笑う。
「――私、死ぬときはこの部屋で血だらけになって死にたいわ。
だってそれは、きっととっても綺麗よ。
まるで落とした花瓶の様だと思うの。」
そんな縁起でもないと思う反面、確かに彼女らしいと思ってしまい、言葉に詰まる。
気まずく目を逸らしコレクションを見る。
真っ白く静かに佇む、空っぽの中身の詰まったコレクション。
—―そうか、君たちには理解者がいるんだね。
彼女に目を向けると、彼女が居ない。
「どうかしたの?」
声はする。しかし姿が見えない。
「あぁ、たまにね。紛れちゃうの。」
姿の紛れたまま、家を後にする。
「また来てね」
そこには人の気配のある、無人の家が一軒あった。
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