チチモドキ

我が家は元々鳥居があった土地に建っているためか、屋内外で不思議な体験をします。

今回は、我が家に出没するチチモドキについてお話ししようと思います。  


そいつと出会うのは、今のところ私のみで、やつは必ず私のいる部屋に現れる。 

シチュエーションは早朝。 たまに出没するそいつは、たったひとつだけイタズラをする。 

私の父になりきって、私を叩き起こすのだ。 見た目も声も父そのもの。 

でも、一点だけ違う。 そいつは、父よりもかなり背が高い。  


記憶にあるなかで一番最初に出没したとき、私は二段ベッドの二段目に寝ていた。 あたたかい布団にくるまれ気持ちよく眠っていると、突然ベッドをガタガタ揺らされた。 

ああ、父だ…。 私の父は、ベッドに寝ている人を叩き起こすとき、ベッドをガタガタ揺らす悪癖を持っている。

 「おーい●●、起きろ!!」 おまけに、声もデカい。

 ベッドの囲い板から半分つきだした父の頭には寝癖はなく、相変わらず朝に強い人だと思いながら身を起こした。 父は私が起きたことを確認すると、部屋から出ていった。 

だんだん頭が冴えてきて、私は今の出来事のありえなさに気がついた。 

ベッドの高さは180㎝、父の身長は163㎝。 普段なら、ベッドの床下から声が聞こえてくる。 

じゃあ今のは…誰? ぞっとしてベッドから飛び降りると、父の寝床へ飛んでいく。 父は腹をだして寝ていた。 


私はやつをチチモドキと呼ぶことにした。 たまに現れるチチモドキは、私を叩き起こす以外のことはしない。 良くも悪くも、インパクトがない。

 だから専門へ行くために県外へ出ている間、私はすっかりチチモドキのことを忘れていた。 最近、事情があり私は地元に帰ってきた。 

出戻り初日の早朝、誰かが私を叩き起こした。 きっちり仕事着の父は、妙に嬉しそうな声だった。 父の寝床へいくと、父は寝間着で寝ていた。 私はチチモドキを思い出した。 

それからというもの、以前よりもチチモドキに起こされる回数は増えた。

 昨日のこと。 私は、父の仕事を手伝うため弁当を2つ作らねばならないことを忘れ、グーグー寝ていた。 すると仕事着の父が現れ、布団をおもいっきり引き剥がした。体を揺さぶられる。

 「やぁーい、今日は弁当2つ作るだら!!!」 

ハッとして飛び起きると、チチモドキは消えていた。 おかげで、私は余裕をもって弁当をつくることができた。 

ちなみに父は……寝坊した。 思い返すと、チチモドキはいつもより乱暴に叩き起こしてきた。 

きっと、いつまでも起きそうもない私たち親子をみかねたのだとおもう。 これでチチモドキの話はおしまいです。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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