友人sの話。
父方の実家に遊びに行った日の夕方。もうすぐご飯だから手を洗ってこいと言われて、居間から離れた場所にある洗面所に行った。 そこで手を洗って、さて戻るべ、と顔を上げた時に気付いた。
洗面所のある廊下の先。その突き当たりにある勝手口、そこの扉にはめた磨りガラスの向こうに
黒い人がいる。 格好はほっかむりをした、着物姿(時代劇で農民が着ているようなもの)の男だった。 普通なら磨りガラス越しでも着ている服や肌の色がわかりそうなものだが、Sが見たのは本当に黒一色の影人間だったらしい。
その黒い人が、磨りガラスの向こうで楽しそうに踊っていた。
えらこっちゃえらこっちゃ、ぐらいのテンポでそれはもう激しく。 何を見ているのか理解できず、最初はポカンとその踊りを見ていたが、 だんだんソレが怖くなって、火がついたように泣き出してしまったそうだ。
すぐにSの親や祖父母が飛んできてくれたのだが、その時には黒い人はどこにもおらず、 訴えも虚しく、結局それはただの見間違いということにされてしまった。
その黒い影の何が怖かったのかと聞いたら、
「あんなに飛んだり跳ねたりしてたのに、物音ひとつしなかったのがとにかく気持ち悪かった。
あと、幽霊もお化けも、何したいのかよくわからん奴は怖い」
という答えが返ってきた。
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