アガザル

同級生の話。

彼は高校生の頃、帰宅途中に不気味な物を見たという。

田圃に挟まれた狭い路の上で、何か真っ赤な物がゆらゆらと踊っていた。

猿のようにも見えるが、顔がない。

どうやら頭の天辺から足の先まで、赤っぽい毛で覆われているようだ。

近よれずにいると、それは踊りながら田を横切り、じきに見えなくなった。

家に帰って家人に話してみると、お祖父さんの顔が険しくなった。

「アガザルが出おったか。こりゃ注意せんといけん」

アガザルとは赤猿が訛った言葉らしい。

その正体はわからないが、時折山から下りてくる化生の物なのだそうだ。

直接は人に悪さをしないが、そいつが出るとまず火事が起こるのだと。

確かにその数日後、村のある家屋が不審火で焼け落ちたという。

「俺が見た奴が本当に、火に関係あるのかどうかわからないけどな」

彼はそう言って、話を締めくくった。 

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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