頭を狂わす

中学の前半くらいまで、僕にはちょっとした超能力?があった。

それは明日誰々と出会うとか、ジャンケンで負けなくなるとか、勘がすごく強くなるって類の、まぁ本当にちょっとした超能力?みたいなの。

それを発揮するのには少し儀式みたいのが必要で、自分では『頭を狂わす』って言ってたんだけど、

意識を集中して、次から次へとごちゃごちゃした具体性のないものを考えていって、

叫び出す一歩前くらいまでいってから、それを一気にクリアにするっていうもの。


で、子供の頃からそういうのを時々やってたんだけど、

中学のある時、学校で花札の『こいこい』っていうのが流行った。

なんで中学で花札かwと思うんだけど、そのうち本当にお金を賭けだすまでになって、

今からすれば少額なギャンブルだったけど、みんな結構本気になってやってた。

僕からすれば、初めて自分の能力が役に立ちそうな場面だったから、例の超能力?を発揮。

ガンガン使って、連戦連勝で結構な額を勝った。


そんなことをしていたある日、普通に家に帰って夕食までTV見てた。

で、何気なく仕度してた母親をみたんだけど、違和感があった。

あれ、この人だれ?って。

どきっとして周りをみると、確かに自分の家で、

夕飯を作ってるのは自分が忘れるはずのない人なんだけど、

知ってるのは判ってるのに、それが誰だか判らなくなってる。

その事にものすごい恐怖を感じて呆然としていたら、TVでたぶんなんかのアニメだったはずだけど、

そこから流れてる声もまったく意味が分からなくなってきた。

音としては聞こえてるのに、言語として意味を理解できなくなってきた。

もうパニック。夕食を作ってる人に呼びかけようとするんだけど、なんて呼んだらいいのか判らない。

それどころか、どうやって言葉を出したらいいのかもわからない。

やばい、『頭を狂わせ』すぎたから、本当におかしくなった!ってもうパニック。

泣きながら目を閉じて、必死に「ごめんなさいごめんなさい」って謝り続けた。

母親が「どうしたの?」って聞いてきて、それがちゃんと理解できたときは本当に安堵した。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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