小屋の二階

昔、まだ学生だった頃。サークルの仲間と旅行に行った。

メンバーのほとんどが貧乏学生だったんで、友達に聞いた安い民宿で泊まることにした。

民宿のすぐ隣に、古そうな小屋みたいな家みたいな建物が建っていた。ボロいんだけど、妙にでかい。

その建物を見て、メンバーの中の霊感強めの女の子が震えだした。

「2階がヤバイ」「こっちを見てる」みたいなことを言って、「こんなところには泊まれない」って帰ってしまった。


夜、メシ喰って花火もして、何だか退屈になってきたんで、隣のでかい建物に行ってみよーぜって話になった。

女の子のうちで2人は反対したんで、男5人、女2人。


いざ来てみると、けっこう雰囲気が怖い。

一階にでかい戸があって、開けてみると、納屋っていうか、農機具とかが置いてある土間だった。

天井でゴトゴトと何かが動くような物音がしたと思うと、外にいた奴らが「電気ついた、電気ついたよ!」と言いだした。

いったん外へ出てみると、上の方の窓から明かりが漏れている。

「やばいって」「怒られるんじゃねー」みたいなこと言ってると、窓が開いて、にゅっと首が出てきた。

明かりが逆光になって顔が黒い。俺はかなりびびっていた。

すると、その首の持ち主が手招きした。

「おーう、そんなとこにいないで、上がってこいよ」

意外に若そうな声だった。ちょっと安心した。

酒もあるし、という誘いにのって、じゃあ上がろうかってことになった。


一階の壁際に、上にのぼる階段があった。

始めは明かりが無くて暗かったけど、途中の踊り場からは、上から照らされてほんのり明るくなっていた。

開けっ放しの扉から中にはいると、30くらいの男がテーブルの向こう側に座っていた。

テーブルの上には料理とビールが置いてある。

部屋の中は、インドっぽいというか、木彫りの置物や楽器が置かれていて、

極彩色の神様や、映画のポスターなんかが貼られていた。

ムチャクチャ広い部屋なんだけど、そのわりに照明が小さくて、隅の方にはほとんど光が届いていない。

「まービールでも飲んでくれ」

そう言ってビールと料理を勧められ、俺たちはその男と酒を飲んだ。

男がインドへ旅行した話や、最近の音楽の話なんかをした。

CDがかなりのボリュームで鳴っていたので、気になった女の子が聞くと、

「大丈夫だ」と男は言って、更に音量を上げた。

ふと時計を見ると、もう遅かったので帰ることにした。

男は倉庫の入り口まで見送ってくれた。


次の日の朝、朝飯を食っている最中に、民宿のおばちゃんが

「昨晩あの建物に行ったのか?」と聞いてきた。

「行った」と答えると、おばちゃんは「何もなかったか?」と、しつこく聞いてきた。

帰りの車の中で、残っていた女の子に「昨日はうるさかったんじゃねーの?」と聞くと、

「それほどでもかったけど・・・」と言ってから、こんなことを言った。


「あの時、音楽が聞こえてきたんで、何やってるんだろうって思って、窓からあの建物をみていたら、明るい窓の下に小さく明かりが灯って。

で、また消えたと思ったら、一階の戸が開く音がしたんだ」


すると、昨日行ったメンバーのうちでMって奴が、それを聞いて「マジかよ・・」とつぶやき、話し出した。

「あの倉庫から階段上がった時に、踊り場あっただろう。

 あそこの壁に、わかんにくかったんだけど、扉があったんだよ。

 その時は、なんだろうって思ったけど、別に気にしてなかった。

 で、帰る時に、その扉がほんの少し開いてたんだ。

 俺、見間違えたのかな?って思ってたんだけど・・・」

「え?・・ってことは、俺らが飲んでたのって3階なの?」

俺はちょっとあせって聞いた。

「じゃあさ、1階に入った時、上で物音してたじゃん。あれって・・・」


思い出してみれば、おかしいところはいくつもあった。

俺らが1階の倉庫みたいなところに入るまで、3階?の窓は真っ暗だった。

あの階は一つの大きな部屋しかなかったはず。

じゃあ、あの男は俺たちが来るまで、暗闇の中で何をしていたのか?

そして、あの料理。一人で食べるには多すぎる量。だけど温かかった。

誰かが来るのを待っていたのか?明かりを消して?俺たち以外の誰を?

そんなことを車の中で話すうちに、なんだか気味が悪くなってきた。

「イヤな感じだな」「後味悪~い」なんて言いながら帰った。


帰ってみると、先に帰ったはずの女の子が失踪していた。

一緒のアパートに住んでる人に聞くと、あの晩、部屋には戻ったらしい。が、いつの間にかいなくなっていた。

部屋は荒らされたり、片づけをした様子もなくて、ただフツーに買い物に出たような感じだった。


その後、あの時のメンバーの一人(以下A)に電話した。

別に何かを期待してたワケじゃなくて、何となくケジメみたいな感じで。

したら、Aがちょっと情報持っててビクリ。

先に電話しとくんだったなーって思いながら話を聞いた。


**Aの話**

あの民宿を紹介してくれた奴(以下B)と、仕事上のつき合いで再会した時、あのでかい建物の話をした。

あれは地元の共同倉庫&集会所だったらしい。

でも、新しい集会所ができて使われなくなったんで、しばらく放っておいたのを、外の誰かが土地ごと買った。

で、いつの間にかあの男が住んでいた。

あの男が何をして暮らしているのかは、誰も知らなかった。

「なんでそんなこと知ってんだ?」って聞いたら、Bが泊まった時、例の民宿のおばちゃんが話してくれたらしい。

軽い感じで喋ってたけど、「あそこにはあんまり近づかない方がイイ」って言ったそうだ。

なんでも、地元の人達ともめ事を起こしている最中だと。

でも、Bと友達は夕暮れ時にそこへ行った。

そこでBは、倉庫の天井から魚が吊してあったのを見た。スゴイ臭かったらしい。

その後、天井の方から大きな音がしたので、Bたちはヤバイと思って慌てて外に出た。

で、その夜、あの建物の方から、数人の男が言い争う声がしていたのが聞こえたそうだ。

Bの話はこれで終わり。


もう一つ。あの時失踪した女の子(以下S)が見つかった。

Cの方が詳しいからそっちに聞いてくれ。

** Aの話終わり **


** Cの話 ***

Sが失踪してから1年ぐらい経ったある日、私の家にSの母親から電話があった。

あの日のことについて話が聞きたいという。で、近所の店で会って話をすることになった。

その時にS母が語ったことによると、実はSは失踪してから1ヶ月後には見つかっていたらしい。

ただ、精神に異常を来していたので、学校や友達には失踪中ということにしておいたらしい。

私も黙っているように頼まれた。

なぜ失踪したのか?失踪中はどこで何をしていたのか?親や病院の人が聞いても何も答えない。

ただ一言、『ヒサユキ』という名前を一度だけつぶやいた。


それで警察は、関係者の中にそんな名前のヤツがいたかどうか、もう一度チェックしたらしい。でも居なかった。

Sはまだ病院に通っているけど、ずいぶん回復しているようだ。

会ってないけど、S母が電話をくれた。だから私も、もう人に話してもイイかなって思った。

ただ、あの日のことについて、Sは覚えていないのか、口にすることはないそうだ。

警察は私らにも、『ヒサユキ』って名前の奴のこと聞いたのかな?どうだっけ?私には覚えがない。

** Cの話終わり **


俺も、警察がそんな野郎の事について、聞きに来たのかは覚えていない。

Sが無事だったのはよかったけど、なんだか後味が悪い。Aの話もいまいちつながらないし・・・

ま、一応後日談ってことで。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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