じじ犬

ウチのじじ犬オンリーだけど、俺は夢で犬と会話できるっぽい。

じじ犬と同じ部屋で寝てると、大概じじ犬と喋ってる気がする。


「若いの、女はまだ出来んのか?」

「うるさいよじーさん。去勢されとる奴に言われたかないわ」

「やかましい。お前に種無しになる辛さが分かるか」

「知らんね」

「なら教えてやるわ」

「まぁ待て落ちつけじじい」

「お、宅配便がきおったぞ」

「マジで?起きるわ」


これが一番新しい会話。一昨日の。この日は覚えが悪くて、全部覚えてはいなかった。

そんで起きた時、ちょうどチャイムが鳴ってクロネコが来てた。


俺は近所の人が知ってる以上に、近所の事について詳しい。

じじ犬に教えてもらった事をうっかり言った事で、

近所の人が解雇されたのを暴いてしまって、エラい事になった時もあった。


「若いの知っとるか」

「何が?」

「はす向かいのデカイのがおるだろう」

「田中さん(仮名)か?」

「そうそう。あいつは怪しいぞ」

「何でなん?」

「あいつ、朝家を出た後山師野町(仮名)で見かけた」

「べつにえーやん。仕事中やったかも」

「あり得ん。ここ4日ほど見てたがおかしい」

「…最近昼飯食わずに家でてると思えば、出歯亀やってたんか」

「そういうな。お前だってワシほっといて大学に行ってるだろう。しばらくは様子見だなぁ」


で、一ヶ月くらいだったかな。また声掛けられて。

「若いの。分かったぞ」

「何よ?」

「はす向かいのデカイの、仕事がなくなったようだな」

「マジで?」

「何もせずぼーっとしとる。ありゃ確実だ」

「はー。なるほど」

「お前もああなってはいかんぞ」

でもってその日の晩。

おかんとメシ食ってた時うっかり、

「田中さん(仮名)クビなったらしいなぁ」

「そうなん!?あらー、ホンマぁ~。嫌やわ~」


みたいな会話をしてしまった。

その次の週くらいに、おかんが田中さん(仮名)とこの嫁さんに、

「ご主人お仕事無くされたらしいですなぁ?お気の毒に…何でも力になるわぁ!」

と親切心バリバリで言った所、嫁さんはそんな事知らず、

その日の晩は罵声と怒号が飛び交いましたとさ。


俺が大学行ってる間の事もなんもかんも知ってるし、犬だから誰も警戒しないんだろうな。

確か高2くらいからだった気がする。分かる様になったの。

部活から帰って来て畳の部屋で寝てたら、声掛けられたんだよな。

歳なのは分かるけど、「若いの」って呼ばれるのはちょっとアレな気がする。

皆妄想だとか言うけどねー。


なんつーか、普通にじいさまとダラダラ喋ってるのとさして変わらん感じで、

でもたまに、やっぱり「あーこのじじいはやっぱり犬だな」って思う事があるけど。

「肉が食いたい」とか言われた時とか。

そもそも、何で俺は毎度犬としゃべってる夢みるんかね?


でも最近意外な発見はあったな。犬飼ってる人向け。

ほねっこってあるでしょ?アレの話なんだけど。

「若いの」

「何よ?」

「毎度もらってるメシに注文付けて悪いんだが」

「うん」

「骨が欲しい。偽物の奴は嫌だ」

「あー、ほねっこ?」

「なんというか知らんが、昨日食べた奴」

「あー、ほねっこだわ」

「そのほねっこな、何か悲しいから、本物の方にしてもらいたいんだが」

「ほう。でもあんた喜んで食べてたやん?」

「なんか噛み付かずには居られんというか、それでも騙された感があって空しいのだ」

「さいかー。でも俺らもそんな感じやで?」

「そうなんか?毎度色々うまそうに食ってる様に見えるが」

「いや、そういうのにせもん系良くあるで、カニかまとか」

「なんじゃそれは」

「カニっぽいけど魚な食べ物」

「ほー。若いの。それよく食べとるのか?」

「割とよく食うなぁ。小腹減ったときとか」

「ほう。みんなそれなりに苦労を抱えてるんだなぁ。我慢する」

「まぁ苦労って程やあらへんけど…まぁおかんに言うとくわ」

「よろしゅうたのむ」


だそうで、ほねっこは空しいらしいです。

できるだけ本物の骨あげてください。個人差があると思うけど…

鳥の骨はダメですよ?

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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