穴を掘る女

去年の冬、彼女とドライブ中大げんかになり、山中に捨てられた。

すぐ戻って来るだろうと思っていたのに戻って来ない。

しかも携帯は彼女の車の中だ。

真夜中で車も通らないし、歩いて山を下りるしかなく、少しでも近道をしようとアスファルトではなくじゃり道を選んだ。

その道は車一台がやっと通れるぐらいで、草は長く伸びていた。きっと長い間使われてなかったんだろう。

歩きにくいし寒いし怖いし、止めときゃよかったって思ったけど、今更坂道を戻るのはもっとダルかった。


しばらく歩いていると明かりが見える。近づくとワゴンRだった。

車は俺にケツを向ける方向で前を照らしている様だ。

ガス欠か?取りあえず携帯ぐらい持ってるだろう。

そう思い、車の前へ回った。

「すいませーん」と声をかけた瞬間後悔した。

そこには穴を掘っている女がいた。

こんな真夜中にだ。

思わず固まってしまい、逃げたら殺されるのかな?なんて考えてた。

「どうしたんですか?」

女の方から話しかけてきた。


俺は経緯を話し、携帯を借りれないかと聞いてみたが圏外だった。

何でもいいが、そこから逃げ出したい俺は、「じゃ、俺急ぐんで」と言って立ち去ろうとしたんだが、


「…手伝ってよ」


女の一言で俺は逃げられなくなった。

「もうちょっとだから手伝って、そしたら送ってあげるから」

そう言った女の右手は何故かスコップを上にかざしていて、断れば振り下ろしそうだった。

必死で穴を掘った。俺が掘っている間、女は俺を見ながらしゃべっていた。

内容は覚えていないが、どうでもいい話だったと思う…

おしゃべり好きなのか、いろいろ聞かれたりしたが、

自分の素性がばれると良くない気がしたから、ウソを適当についていた。


やっと穴を掘り終えた。

女が車から袋を持ってくる。

俺は死体が出て来るのかと思っていたが違った。

髪の毛がたくさん出てきた。一人分とは思えないぐらいだ。

「美容師さんなんですか?」と恐る恐る聞いたが、無言。


車からたくさんの物を出しては捨てていた。

子供用品もあって、最後にはクーラーボックスも捨てていて、俺はその中に赤ん坊が入っているんじゃないかとドキドキした。

結局何だったのか分からないまま、俺は送られ終わってしまった。


今年に入って、家の前に紙袋が置いてあった。

開けてみると、たくさんの髪の毛だった。

その瞬間、俺は山での事を思い出したが、偶然だろうか?


後日、仲良のいい仕事の先輩に話したら、

先輩の好奇心にヒットしたらしく、「その場所に行って穴を掘り返そう」と言いだした。

正直、“紙袋いっぱいの髪の毛”の事がこたえていたので関わりたくなかった。

だが先輩は、「じゃあ場所だけでも教えてくれ」なんて言い出し、

最後には後に引けない所まで話は進んでしまい、結局俺も行く事になってしまった。


仕事の帰りに、先輩2人と俺の3人で山に向かった。

その山道は俺たちが行くと、チェーンがかかっていて入れなくなっていたが、

先輩はチェーンを外し、去年よりものびきった草を踏み倒しながら、俺たちが乗ったサーフはどんどん進んで行った。

まあ、ちゃんと場所覚えてる訳じゃないし、適当に穴を掘って何も出なければ、先輩も諦めてくれるだろう。

と俺は思っていたんだが、あの女が掘っていたと思われる場所は、

明らかに草が短く、土の色も違っていて、誰が見ても分かる。

「ここに間違いねーな」

「車のライトを当てろ。さっさと掘るぞー」

先輩達は目を輝かせながら、どんどん掘っていった。

俺も早く帰りたかったから、無心で掘る。


男3人だと、あっという間に女が捨てた物を掘り起こす事が出来た。

あの時は暗くてよく見えていなかったが、思ったよりたくさんの物が出てきた。

そして、一番気になっていたクーラーボックスが出てきた。

クーラーボックスをこじ開けると、バシャっと黒い液体が出てきた。

その際、先輩はクーラーボックスを落としてしまい、黒い水が全部こぼれてしまった。

「え?何?こんだけ?」

「何だよー死体とか期待してたのに」

先輩はがっかりしている。

「小説じゃあるまいし、現実こんなもんだな」

なんて俺は考えながら、穴を埋めて山を下った。


帰宅中、先輩が「痛い!手が痛い!」と叫びだした。

クーラーボックスをこじ開けたときに、黒い水がかかった手だ。

俺たちは真っ青になり、慌てて近くの病院に駆け込み、

診察してもらうと、何故か軽度の火傷だという。

一安心したが、結局謎は謎のまま、何も解決しないで終わってしまった。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

0コメント

  • 1000 / 1000