ツの点が三つ

3年くらい前かな?確か半そで着てたし夏だったと思う。 

当時俺は、大学出て社会人になったばかりでけっこう精神的に参ってた時、高校時代の友人Aから電話があった。  

友人A曰く「俺も大学出てから精神的に参ってたけど○○っていう 自己啓発系のセミナーですっごい気が楽になったよ」との事。

まぁ胡散臭いがAは高校時代から宗教にハマるタイプじゃなかったし 最悪社会勉強になればいいか程度の気持ちでAと待ち合わせてセミナーに行く約束をした。


駅からAの車で1時間くらい走ってそのセミナーに行ったんだが、一見工事現場とかによくありそうなプレハブ小屋が山の中に立っており、Aと俺が車から降りるとスーツを着た人たちが迎えてくれた。 なんでもそのスーツの人たちもセミナーの受講者らしいんだが休日を返上してセミナーでボランティアをやっているそうだ。 

俺はもうセミナーの胡散臭さと気持ち悪さで逃げ出したかったが Aの車で来てる以上走って逃げ出すわけにもいかずしぶしぶAのあとについて建物の中にはいっていった。


そのセミナーは紹介した人間が参加料金を払うというシステムらしく、Aが受付で俺の分の料金を払っているのをボーっと眺めていると先ほどのスーツ男が「新嬉の方はこちらです」と俺をパーテーションの中に案内した。 

パーテーションの中には椅子型のマッサージ器をもっとゴツくしたみたいな 感じのリクライニングチェアまで案内された。なんでもその椅子に付属されたスピーカーで左脳を刺激して脳を活性化させるらしい。 

正直もうなんとでもなれと思い椅子に座ると、スーツ男が俺の隣りにあるスピーカーと加湿器のスイッチを入れ、「呼吸を楽にして下さい、時間が来たら起こします」 と言い、パーテーションから出て行った。 


なんでこんなことになっちゃったんだろーなーと思いつつ 天井を眺める。

すると2~3分くらいしたとき、やたら鼻がムズムズしてきてあくびが止まらなくなった。 

最初は眠いのかな?くらいに思ってたんだけど尋常じゃないくらいあくびが止まらない不安になって起き上がろうとすると数人のスーツ男が飛んできて俺を押さえつけた。 


椅子のスピーカーからはプツプツという連続音が鳴ってて、頭がぐわんぐわんする。

やばいやばいと思ったがくあくび止まらないし、もうアゴが外れそうなくらいあくびが出て痛かった。

 口が閉まらない。口の両側の皮がプチプチと切れる音がする。息が出来ない。まるで誰かに口を思いっきり拡張されてるような感覚で、パニックになり、そこからどうなったのかはよく覚えてないけどおそらく気を失ったんだと思う。  


気が付くとまだセミナーの建物の中にいたけど誰もいない。 

さっきまであった加湿器とか受付とかパーテーションとかも無くなってて、プレハブの中は俺の座ってたゴツい椅子しか無かった。 

空が赤くて朝日なのか夕日なのか分からなかったけど正直頭の中真っ白で わけわかんなくなってたけどとりあえず「犯された…」みたいな虚しさと悲しさでだんだんイライラしてきて絶対訴えてやる!と思った 。

どういう精神状態でそうなったか分かんないんだけど、証拠として何か持って帰ろうと思って回りを探してたらさっきまで座ってた 椅子にまだCDが残ってた 。

CDを片手に山の中をウロウロしてどう帰ったのは覚えてない。もう一度行こうとしても難しいかもしれないしもう二度と行きたくない。 


それからしばらくフツーに生活してたんだがどうも文字の物忘れやら勘違いが酷くなった。  

いや、勘違いと言うよりは以前いた世界と違う場所に来た感覚?っていうの。

一番酷かったのはカタカナの「ツ」が以前いた世界だと点が三つだった、 俺の名前に「ツ」がつくからずっと勘違いしてたとは思えないし気持ち悪い。 

Aに電話したらケーキ屋さんが出た。 これ書いてたら気持ち悪くなってきた。

最近あくびするのが怖い。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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