写真がいっぱい

10年前にお風呂で現所有者の叔母さんが自殺した、という物件を売ることになった。

現地調査、物件広告のため建物の中に入ることに。

築20年とはいえ中々状態がいい。

意外と手入れは行き届いている。


まずは一階で写真をとり、水回りのチェックをし、いざ二階へ。

階段を登り切ると目の前に30帖くらいの大ホールがあって、その一角に仏間スペースという変わった造りだった。

ありきたりなんだけど仏間の方から人の気配を感じた。

気配は仏間の奥の収納から。


一間くらいの幅、観音扉の収納スペース、どう考えてもそんなに大きな空間ではないはずなのに、その扉の先に妙な生活感を感じた。

なんか家族が集まってテレビでも観てるようなそんな雰囲気。

収納スペースもきっちり写真に撮らなきゃいけない(広告の為、雨漏り確認の為)ので扉をゆっくり開ける。

ぎぃーーーー、がちゃがちゃがちゃ

額縁に収まった大量の写真が雪崩を起こして飛び出してきた。


白黒からカラーまで、10や20では効かないくらいの写真の数々。

家長と思しきじい様、ディズニーランド入り口で撮った家族の集合写真、笑顔のばあ様、七五三、ほんと色々な写真がぜーんぶ丁寧に額縁に納められてる。

ちょっと気になったので所有者に電話することに。

不動産屋ってよく嘘をつくイメージがあるけど、お客さんもまた嘘をつくのがこの業界で、

なんとなくだけど「このお客さん、なんか隠してるな」と勘が働いた。


「お世話になっておりますー。○○不動産の鈴木ですー。

 以前お話した通り本日物件の調査をさせて頂いておりまして。

 ちょっと確認させて頂きたいことがあるのですが今よろしかったでしょうか?」

所有者の男性が応える。

「心理的瑕疵(要は事故物件の内容)について伺いたいのですが、20年前に亡くなった方がいらっしゃると。

 それ以外で何かございませんでしょうか?例えば他にも亡くなってる方だったり、近隣にトラブルメーカーの方がいらっしゃったり」

少し間を置いた後、その内容については直接会って話がしたいと言われる。

いや、県外の人なのに大丈夫なんかいな。

別に電話でもいいのに、と思いつつその日は仕事を終える。


後日、物件の現地で所有者と待ち合わせ。

敷地内にお互いの車を停めて、何故か敷地の外へ出ることに。

敷地のブロック塀にそって歩くと、不自然に盛り上がった茂みを見つける。

男性が草をかき分けると、中から氏神様を祀るような小さな石の祠が出てきた。

「実はみんな死んじゃってるんです。この家」

男性が言うには以下の通りだった。

•この辺りは昔から飢饉の度に大変な被害が出たらしい。

•この祠はそうした時に口減らしで殺された子供の霊を慰めるためのもの(今で言うところの集合墓地)。

•今まで何度かこの敷地で家を建て替えている。その度に不幸があったとのこと。

•多分これが原因ではないか。

ほえー、ってなった。


「相続関係で巡り巡ってうちにこの家が回ってきたんですが、どうも親戚筋に中々教えてもらえなくて。

 なので確証はないんですけど多分これのせいだと思います」

男性が更に続ける。

「それで、別にこんなオカルトっぽい話あんまり関係ないかなって思って伏せていたんですけど、この家には変なルールがあって」

詳しく書き起こすとすごく長くなるので、要約すると以下の様な内容だった。

•ルールは簡単。毎年一枚、お盆前にその家に住む人の写真を仏間に納めなければならない。

•新しく撮った写真をご先祖様に見せて「この一年無事過ごせましたと報告する意味があるらしい(昔は名前を書いた紙で報告していたが、いつからか写真に替わった)。

•それを怠ると不幸がある。年齢が若い順にその不幸は早くやってくるようで、小さい子供の場合は一年持たないこともあるらしい。

ほえーってなった。


もう見ましたよね、と言いながらその男性が仏間の写真について触れる。

「あの写真、写ってる人はもうみんな死んじゃってるんです。

 叔母さんが最後の一人だったようで、自殺の原因も子供が死んでしまったからだとか」

「うちもそんな気味の悪い所、あんまり触れないようにしていたんですが、ここ最近この地区の自治会長さんから電話をもらいまして。

 まあ親戚筋からも話があったんですけど」

その電話の内容もかなり長くなるので要約。

•ここ数年、この地区で変な死に方をする人が増えてきた。

•本当はもっと前からそういったことがあったのかも知れないが、最近は特に酷い。

•この物件の所有者について、不幸があったり独自のルールがあるのは地区全体で暗黙の了解。

•住む人がいなくなったことで、この家の外にまで犠牲が出ているのではないか。

•早く誰かに住んで欲しい。少なくともその人達が亡くなるまでは自分達は安全。

•心理的瑕疵について周辺の聞き込みがあった時には地区全体で協力する。

という話らしい。

誰にも言うな、とのことだったそうだがどうにも話さずにはいられなかったらしい。


で、オチも何もない話なんだが、うちの会社としてはその物件を売りに出すことにした。

10年前の自殺については勿論触れているが他はダンマリ。

うちの会社と付き合いのある悪徳弁護士によると、その件については説明義務がないと判断されるらしい。

そもそも地区全体でダンマリ決め込まれたら発覚しない話だしね、とも。

周辺相場よりもかなり安くて中々悪くない物件なんだけど、広告してから2年間一向に売れる気配がない。

もう何度か値下げしたりハウスクリーニングを入れたりしてるんだけど何故か売れない。

事故物件であっても買っていく人は普通にいるんだが、この物件だけは不思議なくらい売れない。

月々家賃以下のお支払いで住める豪邸、是非お買い求めください。

その後のことについては責任取れませんけれども、っていうお話でした。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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