551.天才音楽家が亡くなった
「僕は悪魔よりも上手い」これが彼の口癖で、夜な夜な彼の部屋からは二人分の音色が聞こえる為「彼は悪魔と何かしら関係がある」と噂されていた
それからだ。街の何処からともなく楽しげな演奏が聴こえる様になったのは。「彼は遂に友達を見つけたのだ」と誰かが言った
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552.骨董品のラジオを回すと、やっと番組を拾った。
「…ちは、こちら地球…今地…は、川が…れ緑が増え、青空広がり美しい原始的な風景が広がっ…ます…れが貴方達の言う終末なのですね…火星に行った皆さん、どうぞハイテクを楽しんで…本日の曲は…のTAKE TEN……」
僕は望遠鏡を構え地球を探した。
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553.長年育てていた朝顔が病気になった
その為か今年は一輪だけ付けた蕾が彼女の晩年を告げていた
早朝会いに行くと彼女は遂に恭しく顔を上げ、ポンと開いた。見つめていると青紫の鮮やかな真ん中から、ころんと一つ、朝露に濡れた月長石が私の手へと溢れでた
彼女は今年萎み行く
私は彼女を忘れない
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554.「聞いてください、話す話が無いんです」と、錦鯉が嘆いた
確かに、何かを語るには狭い池だ
「僕の人生には価値が無い!」と泣くのでこりゃいかんと私は急いでタブレットを持ち側へ寝転んだ
『どれがいい?』映画を選ぶ。
わぁと喜ぶ彼の隣で一緒にお麩を食べる今日は、なんと価値のある日だろうか。
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555.夢は落ちるものであり、従って昨日とは上にあるもの。これは自然の摂理であるが今日は少し違い、所謂バグだった。
朝目を開けると『NO DATA』となった自分の影が浮いていたのだ。氏神様曰く「今日の夜寝れば直る」らしい。
次の朝起きると影はきちんと更新され、ぴたりと足元へ戻っていた。
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556.ジャラジャラリと素敵に澄んだ音を立て、深夜空から何本かの鎖が降りる。先に付くは真珠貝の、ミルクの雫の如き手だ。とぽんとぽんと海やコップに突き刺して、一つ、また一つと先月おとついと散らばらせた月を拾う。すっかり海から光を取って、またジャラジャラリと空へ戻ってゆく。
満月の始まりだ。
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557.沢山本の入った段ボールの一番下から、表紙のない本が出てきた
めくってみると「はり目にあた、そしたさちよ。彼はめさり…」と文のふりをした文字が並んでいる
『今漬けてるんだよ』
『あと一年ぐらいで読める本になる。推理小説ができる予定さ』
本作家の叔父さんはそう言って嬉しそうに蓋を閉めた
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558.無記名の心霊動画が届いた。廃墟で男が幽霊に襲われカメラが倒れて終了。創作にしては幽霊がリアルだった為採用した。
放送した次の日、製作者の親を名乗る人から電話があった。服装が行方不明の息子の物と同じだと言うのだ。
斯くして遺体はそこにあった。誰が何故動画を送ったのかは謎である
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559.眠っていると、久方ぶりに誰かが来た。目を開けると、そこには友人によく似た幼い少女がおり私に花を手向けていた。紛れも無い、この子は彼の生まれ変わりか!
じっと見つめていると親が現れ、手を優しく引いていった。私もそろそろ進まねば。振り返り此方に手をふる彼女の目に友人を見た。
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560.本物の百合を見た。それはこの世のどの百合よりも本物で、宝石も眩む程の気高さと憂いと、ただ存在のみを纏っていた
という夢をみた
だがそれ以来どの百合を見ても偽物に見えてしまう。なので私はかの百合を再臨すべく人生を捧げ、やっと本物の百合を咲かせる事に成功した
そこで私は目が覚めた
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