デジャヴ

大学時代にサークルBOXで後輩たちと夜中に怪談大会をした。

光が漏れないよう窓に厚手のカーテンを引いて、

「俺からいくぞー」とか言って、ネタ本から仕入れた話を始めた。

ノリで始めただけでみんな大してオカルト好きなわけでもなかったから、他愛ないネタでも結構うけた。

深夜1時を回って、「今日は徹夜でいくか」とテンションが上がってきた頃、

今まで聞くだけだった後輩のSが、

「じゃあ、これどうですか?あそこのグラウンドの隅っこに、小さい地蔵あるでしょ。あれ、大昔ラグビー部の事故で・・・」

と話し始めた。

するとみんな一斉に、

「それ知ってる」

「照明が無い頃、夜練習してて首折って死んだ学生が化けてでるって言うんで、建てたって話なんだけど・・・」

「そうそう、それ」

「有名なんだー」

などとぺちゃくちゃ喋りはじめた。

かくいう俺も知ってた。


しかしおかしい。

Sが話はじめた時、すぐに怪しい感覚に襲われた。

俺の経験上、これはデジャヴだ。

俺はなぜか説明できないのだが、デジャヴはデジャヴとはっきり分かるのだ。


だとすると妙だ。

これがデジャヴだとしたら、この話は今はじめて聞いたことになる。

でも知っている。

知ってる話なのに、デジャヴ?

ていうか、デジャヴってなんだっけ?

部屋がグルグル回ってるような気がした。

「空気を吸ってくる」後輩にそう言って外に出た。


しばらくして帰ってくると、まださっきの怪談は続いていた。

「あの地蔵の前を通ると、うめき声が聞こえることがある」なんてことを後輩の一人が喋っていた。

その話を最後に次の怪談へ移っていった。


結局、夜が明けるまで盛り上がって、朝方に解散となった。

そして吉野家でも行こうと、俺含め数人で連れだってサークルBOXを出た。

「ついでにあれ見ていこうぜ」と誰かが言って、わざわざグランドを回り込んだ。

地蔵は何事もなく、ちんまりと立っていた。

「朝に見ても別に怖くねーなあ」と誰かが言った。

俺はそれを見て吐いた。

「ちょっとちょっと大丈夫ですか」と言われたが、「おかしいのはそっちだろ!?」と思わず口走った。


信じられなかったが、こうなるような予感というか悪寒がしていた。

夜中に空気を吸ってくると言って外に出た後、俺は地蔵のところに行ったのだ。

場所はもちろん知っていた。だけどそれもデジャヴのような嫌な感じ。


そして記憶の場所についたが、そこにはなにもなかった。

離れた場所に電灯が一つあるきりだったけど、確かに土の上にはなにもなかった。

地蔵はどこにもいなかったんだ。

もどってきた時、怪談がまだ続いていて寒気がした。

こいつら一体なにを話しているんだ?なんでありもしない地蔵についての怪談話を

全員がその存在ごと「存在している」と認識して話をしているんだ?


背筋がぞっとした。

しかし朝、「ついでにあれ見ていこうぜ」と誰かが言ったとき、

地蔵がもうそこにあるような予感がしていた。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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