キュルルル

以前、私は電話や来客を応対する、いわゆる受付嬢をしておりました。

当時その会社にかかってくる電話は、実際その4割が、

業務と全く関係のない営業電話であったり、迷惑電話であったりと、

その多さたるや、一日中お断りの言葉を繰り返していると実感したほどでございます。

ナンバーディスプレイを導入するも、実質あまり意味を為しておりませんでした。

また、業務は大変忙しく、事業内容が貿易関係だったのもありまして、海外からのご連絡も少なからずあり、

ただの受付である私も、深夜12時過ぎまでのシフトを組まされ、ひたすら電話応対をする日々でした。

前置きが長くなりましたが、その日々の中で私が受けてしまった、とても奇怪な電話のお話です。


その日私は、いつものように深夜勤をこなしておりました。

時刻は正確には覚えておりませんが、午前0時過ぎだと思います。

外販部の方には何人か居るようでしたが、事務所には私が1人でした。

すぐにプルルル、と電話が鳴り、受話器を取りました。

「はい、A社でございます」

『はい、ザザーッ A社でございます、ます、キュルルーッ』

「もしもし?」

『もしもザザーッし、もし?キュルーーッ』

「こちらはA社でございます、どちらさまでしょうか」

『こちらはA社でございます、ザザーッいます、どちらザザッさまでしょうか、うかキュルルルッ』

その相手は、私の言葉をそのままオウム返ししてきました。

奇妙なのは、まるでボイスチェンジャーを使ったような声と、語尾部分のおかしな繰り返し、

ザザーッという砂嵐のような雑音、そして『キュルーッ』という、ビデオを早送りをしたときのような音でした。

気味が悪いと思いましたが、どうせテープレコーダーなどを使ったイタズラだと思いまして、

「失礼します」と言うなり、返事も聞かずに電話を切りました。

しかし、受話器を置くなり、また同じ電話がかかってきたのです。

「はい、A社でございます」

『はい、ザザーーッA社でごザイマス、ザイマス、キュルルーッ」

「失礼します」

がちゃ。

プルルル…

「はい、A社でございます」

『ザザッイ、Aシャデゴザイマス、ゴザイマス、キュルルーッ」

がちゃ。


切ってもしつこくかけてくる電話。しかも、先程の電話とは声が違いました。

ボイスチェンジャーの設定を変えたのか、どうやったのかは分かりませんが…

とにかく悪ふざけが過ぎるし、いちいち応対していたら仕事にならないので、

次にかけてきたら、保留のまま放っておこうと思いました。

(回線は1つではないので、業務にさほど支障は出ません)


もちろん電話はすぐにまた鳴りました。

受話器を取って、いたずらであるのを確認し、保留して放置します。

しかし、1分も経たないうちに、次々と同じ『キュルルーッ』という電話が入り、

あっという間に、5本あった回線が、全て同一の電話でいっぱいになってまったのです。

相手側に最低でも5本の電話回線がないと、このようなことはできません。

私はもう恐ろしくて恐ろしくて、とりあえず外販部の方に行こうと思いました。

急いでバッグと上着を掴んだとき、私の携帯が鳴ったんです。

見ると非通知でした。(都合があり、非通知拒否はしておりませんでした)

もちろん 普段ならそんな時間の非通知なんて絶対に出ないのですが…

何故かふっと出てしまったんです。通話を押して耳に当てました。

その電話は『ぷキュルルッ』といって、ブツッと切れました。


あとはもう一目散です。

プルルル、プルルル、とコール音が鳴りっぱなしの部屋を飛び出て、外販部のところへ転がり込みました。

残っていた社員に、恐怖でもつれてうまくまわらない舌で必死に事情を話し、

一緒に事務所まで来てもらうと、すっかりその電話は鳴り止んでいました。

その電話を受けた翌日、

突然「ぶつっ」という音と同時に、私の右耳が聞こえなくなりました。

もうパニックでした。

その時はすぐに元に戻りましたが、今でも時々、突然右耳が聞こえなくなったり

突然右目が見えなくなったり そういうことがあります。

どちらも一過性のもので、数分で元に戻るのですが…

あの電話で、何か『よくないもの』に充てられたのでは…と、今ではそう考えてしまっている自分がいます。

単にあれは誰かの手の混んだイタズラで、すべては私の被害妄想が起こしていることなんでしょうか。


また、その後、よく見るようになった夢があるんです。

大きな黒い鳥が、私の頭上をぐるぐると飛んで周り、そのうち降りてくるのですが、

なんと鳥の頭部は、人間の女性の顔なんです。

彼女はバサバサと降りてくると私の右側の肩に止まり、耳もとでキュルルル、と鳴くんです。

女性の顔に見覚えはないし、あまり深くは考えないようにしていますが…

やっぱり不安です。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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