偶然

友達と遊んだ時の話なんだけど、しばらく会ってなかった友達と久しぶりに飯でも行こう、となって居酒屋で待ち合わせをした。 

俺は仕事で少し遅れそうだとメールすると、先に飲んでると返信が来た。 約束の時間から30分くらい遅れて店に入り、店員に待ち合わせと伝えると仕切りのあるボックス席の方へ案内された。あいつはどこかなときょろきょろすると手前の席は頭が二つ見える。  友人は一人のはずだし違うな、と思って奥へ行ったら後ろから「ここだよ!」と声を掛けられた。振り返ると、さっき頭が二つ見えた席で友達が一人で俺を呼んでた。

不思議に思いながら悪い悪いと席に入ると、やはり友達一人しかいない。 見間違えたかと気にせず飲みはじめた。

しばらく飲んでいると友達が、こないだナンパしてさーと話し出した。ちょっと変わってる子なんだけど今度おまえも一緒に遊ぼうぜと誘って来た。 俺は彼女いたし、うーんとか言ってお茶を濁してると、友達がちょっと小便といってトイレに立った。 

一人でたまには遊ぼうかな、とかせっかく誘ってくれてるから行こうかな、とか考えてると 「ダメだよ」 後ろから急に聞こえた。 えっ?っと思い振り向くと後ろの席で女の子三人組が楽しそうに話をしている。

なんだ…偶然聞こえただけかと思い、また遊び行こうかと思った瞬間 「行くなよ」 今度は横から聞こえた。横には若い男四人組がげらげらと大声で笑いながら騒いでいる。タイミングが良すぎるなと一人で苦笑いしてしまった。 

そこで友達がトイレから戻って来て、座ろうと屈んだその一瞬、友達の後ろに誰かが立っていた。

茶髪のギャルっぽい女の子。普通なら可愛いのかも知れないが…目が白目だった。 とっさに目をそらし、もう一度見直したが女の子はもういなかった。 

「さっき言ってた子からメールきてさ。」 何も気づいてない友達がニコニコしながら言う。 

「この後、合流しないかって」 茫然としていた俺がわかったと言おうと口を開きかけた時 

「絶対いくな!」  

何人かが同時に叫んだような声だった。

はっとして周りを見回すと女の子三人組、男四人組の全員が無表情でこっちを見ていた。  

それはほんの一瞬だけで、すぐまたこっちを気にする風でもなく楽しそうに盛り上がりだした。 

「何キョロキョロしてんの?大丈夫か?」 友達は怪訝そうな顔でこっちを見ている。あぁ大丈夫、と言って平静をよそおったが手の震えが止まらなかった。 

 「で、行くだろ?この後。」 友達が聞いてくる。俺が彼女から呼び出しが来たから帰る、と言うとそうかーと残念そうだったが、それ以上は誘ってこなかった。酔いも醒めてしまったのでそろそろ帰ろうと言って席を立った。 

 わーパチパチパチ と周りの席がなぜか同時に拍手していた。もうそれも気味が悪くて足早に店を出た。 

すると友達の携帯が鳴った。あ、メールだ。と携帯を見た友達が変な顔をしている。

「どうした?」と聞くと 「ナンパした女からメールなんだけど意味わかんなくね?これ。」 と俺に携帯を見せた。 

そこには"もうひけない"とだけ書いてあった。その後、その女とは連絡が取れなくなったそうだ。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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