その家の決まり

大学の友達の家での事。 何度も遊びに行ってて気にもしていなかったんだが、そいつの家ではある不思議なことがあった。 

玄関に上がる際に「靴を揃えない」という決まりと、 俺がそいつの家のトイレに入ると便器の底から泡が出てくる事。 

泡は、でかいのが一発の時もあれば小さいのが連続の時もあった。 靴を揃えない決まりというも、俺がそいつの家に初めて行ったときに、 「あ、一応靴は揃えないでおいて」と言われたから勝手に俺がそう思ってただけなんだが。

ある時、間違って靴を揃えてしまったらしい時があるんだが、玄関から靴が消えていて、 その友人が「あ、靴揃えた?ごめんごめん。ちょっと待ってて」と言って、二階から靴を持ってきたことがあった。 そいつの部屋一階だし、そいつが上に持って行ったわけじゃ無いと思うんだ。 

可能性があるとしたらそいつの母親なんだが、いい人だし、何となく聞けなかった。 普段屈託なく笑うそいつも、若干苦笑いしてて、不思議に思ってたんだが、 何かがあるわけでもなかったので、暇だったので次の日もそいつの家に行った。 

普段通りゲームなんかをして遊んでて、何となく尿意を催してトイレに行ったら、いつもより出てくる泡の量が多かった。 最初泡が出てきたときから、排水溝に空気でも溜まってて、それがトイレに入った振動で出てきてんだろうと俺は思っていた。 その時のも、たまたま量が多いだけなんだと思ってた。

それからなんとなくだけど、そいつが靴を揃えないようにと俺に促すことが多くなってきた。 玄関に入る前と、靴を脱ぐ前、という風に俺ができるだけ間違えないようにしているような感じがした。 

親が宗教関係の人なのかなと少し怖くなって、ずっと気を付けていたんだが、 大学二年生になってからのある日、また靴を無意識に揃えてしまっていたらしく、玄関から靴が消えていた。 

俺がやべえと思っていた矢先、友達も「まじか・・・どうすっかな・・・ちょっと待ってて」と言って二階から靴を取ってきた。  

しかしその時の俺の靴は両方とも絞った雑巾と同じくらい捻じれてた。 

俺の靴は合成皮で作られた割と丈夫な靴だったので、機械で絞るくらいしないとそうはならない。靴がおかしなことになったことに関して、俺はショックより恐怖のがでかくて、正直脂汗が半端じゃなかった。 焦ってる俺に友達は「まじごめん・・・弁償するから・・・。ちょっと外で話そう」と言った。 そいつの事も少し怖かったが、家から一刻も早く離れたかった俺はそいつの言うとおりに移動して、 近所の公園で飲み物の見ながら話を聞いた。


「信じてもらえるか分からないけど、とりあえずあれやったのはウチの親じゃない」という話だった。 あれは、なる人とならない人が居て、今のところ家族はなっておらず、 被害者数は独立してる兄の知り合いを含めると、今までに5.6人が同じようなことになったらしい。  

初めて靴の雑巾絞りが起きたのは、小学生の友達を家に呼んだ時で、 その時はその子の親がイジメだと思って怒鳴り込んできたらしい。 でも、両親とも何のことかわからず、その時はとりあえず弁償して事なきを得た。 被害にあった奴は、ことごとく家に来なくなっていて。 何度もお払いの人を呼んでいるらしいが、特に何もないと言われ、本当に原因は分からないとのことだった。 ちなみに、消えた靴は大抵ベランダに置いてあるらしい。


それで仲が悪くなったわけではないが、それから3年生に上がってからもそいつと遊ぶ時は外だった。 被害にあったほかの友達同様、俺もそいつの家に入ることはもうないと思っていたんだが、 冬にそいつとスケボーをしていた時、土砂降りの雨が降ってきて、真冬にパンツの中まで濡れた。 俺もそいつも寒すぎて体調的にやばくなりそうだったので、意を決してそいつの家に行った。 もちろん靴の事は忘れていなかったので、外でスケボー用シューズを脱いで入った。

暖を取り、落ち着いてきたあたりでトイレに行きたくなった。 友達に伝えてトイレに入ると、便器がこれでもかというくらい泡立ってて、 泡のはじける音と一緒に「ぉぅぇぅぅぅぃあ」「ぉゃぅぅぅぅぃあ」と声みたいなのも聞こえた。 雑巾の記憶が強すぎて泡のことなど忘れていた俺はビビりすぎて漏らしそうになって、 勝手にそいつの家の風呂場で用を足した。 風呂場から戻るときはトイレの前を通るんだが、その時にはトイレは収まってた。 

謝る事も込みでその話をそいつにした。 しかし、信じてはくれるんだが、どうやらトイレの泡の事は知らなかったらしい。 そいつも怖くなったのか、トイレ行けないと言い出した。 しかもいつの間にか雨が大雪に変わっていて、電車も車も止まって帰れなくなった。 失礼な話だが、正直そいつの家に居るのが嫌すぎて、歩いて帰ろうかなとも考えたが、マジで無理だと気づき、やめた。 

そいつの家の車・・・と考えたところで、そいつの両親から「帰れないので会社で止まる」と連絡が来た。 で、結局二人で泊り決定。 

泣きそうだった俺を心配して、友達が「食塩でも盛り塩ってできんのかな」と言い出し、 リビングから瓶詰の塩を持ってきて、醤油用の小皿に盛り始めた。 完成した中途半端な盛り食塩は玄関、トイレ、そいつの部屋の入口に二つずつ。計六つ置かれた。置き方はスマホで調べた。 

気休めだったが俺はなんとなく安心して、馬鹿な俺は夕方くらいに寝た。 で、夜中に起きた。寝ぼけてる暇もなく俺は恐怖で目が冴え、すぐ横で寝ている友達を起こした。 友達は寝たばかりのようで眠そうだったが、俺のことを思い出したのかすぐ起きた。 「なんかあった!?」と言われ、俺が否定すると安心したのか、良かったと言ってくれた。ほんと良い奴だと思う。 

で、そいつは「デカい方してくる」と言ってそのままトイレに行ったんだが、数秒後、ダッシュで戻ってきて扉を思いっきり閉めた。俺は走ってきた音と扉があいた瞬間心臓が止まりそうになったが、ぎりぎり耐えた。 話を聞くと、外で叫んでる奴がいるらしいとのこと。 

俺たちは夕方寝たときからつけっぱなしだったテレビを消し、耳を凝らすと、 「やああああいああああっあ!!!!!」「やあああああいだあああああ!!」 もう一度心臓が止まりかけた。 俺はそいつの声を聞いたことがあった。 トイレの中から聞こえた声のイントネーションに限りなく近かった。 怖いこと続きで我慢できなくなった俺は、泣いて友達に死にたくない助けてと言った。 友達も「まじかよぉ・・・」と泣きそうだった。その時は一生出れないんじゃないかと思った。 


で、俺も友達も気づいたら朝だった。 どうやら寝たらしい、というか恐怖で気絶したんじゃないかと思ってる。 で、その時には声もやみ、雪もそこそこ溶け、 そいつの母親が帰ってきた少し後にすんすん泣きそうになりながら「お邪魔しました」と言って遂に家を出た。 友達は「これから遊ぶ時はお前んちの近くにしよう」と若干泣きそうだった。 

玄関を出たところで雪に埋もれたであろう俺の靴を探したが見つからない。  あの夜中の声が脳裏を掠めて悪寒が走った。 たぶん夜に外で叫んでたあいつは、また俺の靴に何かしたのだろうと思った。 


友達は慌ててベランダに走ったが、「無いよ」と言った。 見つからないのも怖いので少し辺りを捜し、やっと見つけ出した。 

それは、丸い氷の塊に包まれた、二つの布とゴムのスクラップボールだった。  

俺の固いスケボー用シューズは雑巾絞りの時よりも強い力で、雪の様な半透明な何かと一緒に子供用野球ボールくらいの大きさに固められてた。 それで本当に帰り始める際、その塊は向こうでお払いに持って行ってみるという事で預けた。 家まではそいつとそいつの母親が車に乗せてくれた。途中何度か吐きそうだったが、なんとか家に帰った。 礼を言って別れ、自分の部屋のベッドに横たわると、ほとんど眠っていたはずなのに疲れ果てて自室で寝た。 

夜に起きて、昼夜逆転かなとか思ってたら、そいつから電話がかかってきた。 「ああ、もう落ち着いた?何もない?」と言われ、大丈夫だよと返したら「そっか、ならよかった。あ・・・」と途中で言葉を切った。

それからしばらく経って、そいつとウチの近くで遊んでいるときに、その時の話になった。 怖かったなーなんて話をするくらい俺が回復したのを見てか、そいつが言った。 

「今更になって言うんだけど、というか、すぐには言えなくて黙ってたんだけど、あの時、靴ボールが半透明な何かで固まってたじゃん?あれ、盛り塩に使った塩の塊だった」

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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