二重の恐怖

金縛り初体験の時の出来事。 

 両親は結婚記念日の旅行に行ってて、姉も部屋に引っ込んでた為、一人でテレビの心霊特番を見ていた俺。 『こういうものを見ていたら呼んでしまいますよ』みたいなテロップに若干ビクビクしながら、布団に入ったんだ。 

 来世の人生設計を考えることで恐怖を打ち消しつつ、眠りに落ちるかという瞬間、金縛った。  

指も爪先も動かない。なのに目は動く。見ちゃいけないと思いながらも、視線を部屋中に走らせてしまう。 何も見えなかったが、確実に金縛りに遭っている。何かいる。 やばいやばいやばいどうしよう、 そういや幽霊ってエロいのが駄目っていうし、こうなったら●貞卒業の瞬間を脳内で先行体験するしかない!! みたいな阿保なことを考え始めた時だ。 


「ぎょぉおおう!!!!だんじょうびおめでどぉぉおう!!!!!!」


隣の部屋から絶叫が聞こえてきた。 隣は姉の部屋だ。 

何でもその日は、姉が夢中になっているバンドのボーカルの誕生日だったらしく、 熱心なファンだった姉は、日付が変わった瞬間におめでとうを叫んだらしい。 

ハッピーバースデーをやたら野太い声で狂ったように歌う姉。 途中からそのバンドの歌に変わってるし、何かめっちゃ叫んでるしで、幽霊と張り合うくらい姉も怖かった。 心霊現象と姉の過激な誕生祝いとのダブルパンチでもう泣きそうだった。  

弾けるように部屋のドアが開き、マリリンマンソンみたいな化粧をした金髪頭になった姉が乱入して来た。 爆音でCDを掛けながら「サイ!サイ!」と拳を上げ頭を振り乱す姉。 

もういい加減金縛りが解けても良さそうな展開なのに、よっぽど念が込められていたのか全く解けなかった。 

親の不在をいい事にますますヒートアップする姉。しつこすぎる金縛り。二重の恐怖に少し泣いた。 姉が口に含んだ血糊を吐き出して、狂ったように笑いながら床を這いずり回るパフォーマンスをした頃、 ようやく金縛りは解けてくれた。本当に安心した。が、姉の方は収拾が付かなかった。


俺は諦めて姉に付き合うことにした。 

今ではもう毎年の恒例行事みたいになってるし、昨年からは他のメンバーの誕生日でもやるようになりました。 

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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