そんなある日の夕方、友人(A)から「暇だからドライブ行こうぜ!」という電話がかかってきた。「野郎2人で夜中にドライブとかアホかw」と答えると、Aはまあいいから とりあえず来いと言う。 断ってもどちらにしろする事が無い俺は、とりあえずAとの待ち合わせ場所に向かう事にした。
待ち合わせの場所に着くと、Aが親から借りたらしい車に乗っていたのだが、なんとAは一人 ではなく車内に女の子が2人いる。 2人ともどこかで見た事があるなとおもったら、俺達と同じ高校の隣のクラスの生徒だった。
事情を聞くと、Aがだめもとでメールして誘ったら意外な事にあっさりドライブへ行くのをOKしてくれたらしい。 (女の子2人は、仮にB美とC子としておく)
4人でとりあえずファミレスでちょっと早めの飯を食い、どこへ行くかという話になったのだが。
こんな田舎に遊びにいけるような場所も無く、意味もなく「海を見に行こう」という話になった。
車を走らせ車内でわいわいやっていると、C子が自分の携帯をみながら半笑いで 「ちょっとやめてよー、誰こういうことするの」と言いながら自分の携帯画面を見せてきた。
そこにはメール画面が映し出されており、 「ぅ繧¶ソ√次の信号のある交差点を右?¶???≫? ̄?μ??¢??・!!!」 と、文字化けした記号の中に文章がある。
差出人を見ると「通知不能」と表示されておりわけがわからない。
俺はメールなんてしていないし、Aは運転中でできるわけがない、B美はそもそもC子の 隣に座っていたのでメールをすればすぐに解る。
しかし、当時の俺はそこまで頭が回らず、誰かが悪戯したんだろうと思い「面白そうだから 指示どうりにしてみね?」とふざけ半分に提案した。
AもB美もC子も面白そうだからと同意した。
暫らくすると信号のある交差点に差し掛かり、指示通り右へと曲がった。
そのまま道なりに進みながら、俺達は「誰だよーw」などと笑いながら“犯人探し”をしていた のだが、5分ほどするとまたC子の携帯が鳴りメールが届いた。
そこにはやはり通知不能の差出人で
「ケΤ鏤ア次の信号を左、?縺・励さ繝¶そのまま直進∵悽代阪k縺ョ」 と書かれている。
そしてさっきと同じように指示通り進んだ。
暫らく進むと、B美がおもしろ半分に「○○君(俺)が犯人じゃないのー?」と、俺を疑い出した。 たしかに、C子とB美は後部座席で隣り合って座っているのでメールするのを 見逃すとも思えない、 Aは運転中なのでメールするのは無理そうだし、前を向いているので俺が見えない。
助手席にいる俺は3人の死角にいることになる、たしかに一番疑われて当然かもしれない。
しかし当然ながら俺はやっていない、そもそもC子のメアドを知らないのにできるわけがない。
「いやちがうってwほんと俺じゃねーし」 と弁解し、「じゃあ全員携帯を見える場所に出そうぜ、それでメールが来るかどうか確認しよう」 「まあ俺達以外の外部の誰かが悪戯でやってたとしたらそれでもメール来るがなー」と提案した。
誰が犯人であれ、これで少なくとも外部のやつか3人のうち誰かかは解るはずとみんなが確信していた。
全員がドリンクホルダーのところに携帯を置き、暫らく車を進めていると…、メールは来た。
しかし、今度はC子ではなくAの携帯にだった。
「∋縺′○○書店の怜#喧/交差点を左?/」
やけに指示が具体的だ… が、俺は皆に俺の予想を説明した。
「これ、俺達の知り合いの誰かが悪戯でやってるんだよ、その場にはいなくても、ルートを 指定していたのはこのメールなんだし、どこを曲がれば次に何があるかなんて 解ってて当然だろ?」と。
そして「こうなったら最終的にどこにつくのか確認してやろうぜwww」と、女の子の手前強がって みせた。 Aも「だよなー!」とノリノリで答えたし、B美とC子も「でも怖いー」とか言いながらもノリノリだった。
しかし、当時の俺は気付かなかったが、この説には致命的な欠陥がある。
そもそも「最初のメール時にどこを走っていたのか」が解る訳が無いので、 遠隔地から具体的指示など出せる訳がないのだ。
しかも、実は最初にメールが来てから交差点をいくつか通り過ぎていたので、一応Uターンして メールが来た場所らしい交差点まで戻って曲がったのだが、うろ覚えなのでそこが 本当に指示通りの交差点だったかどうかわからず、完全に指示通りきていたかどうかも怪しい。
自説の欠陥に気付くこともなく、その後も俺達はメールの指示通りに進み、 とうとう人気も明かりも無い山道へと入っていってしまった。
途中、トイレ休憩ということでドライブインに寄った時、俺はAにこっそりとこう聞いてみた。 「で、誰にメールするよう指示したんだ?」と。
俺はAが“そういう演出”をしているんだと思っていたわけだ。 するとAは、「いや、俺じゃねーし、お前が誰かにやらせてるんじゃなかったのか?」と言ってきた。
結局、どっちも犯人ではない事がわかり、じゃあB美かC子が誰かに指示してるんだな という結論になったので、後で聞いてみる事にした。
車に戻り2人に事情を話したのだが、2人とも俺かAが指示していたのだと思っていたという。 嘘をついている様子もないし、むしろ俺達が犯人じゃない事に驚いているようだった。
なんとなくそれで車内の空気が微妙になってしまったのだが、気を使ったAが「まあゴールして みれば解るだろうし進もうぜ!」とみんなを励まし?た。
それからも人気の無い山道を差出人不明の怪しいメールの指示通り進んでいると、今度は 俺の携帯にールが来た 「ぅ繧¶次のY字路を左鞁臣?」 道を進んでいくとたしかにY字路はあった。 が、俺達は進むのを躊躇して車を止めた。
指定された道は舗装もされていない真っ暗な林道で、道幅も狭く一度入ればUターンすることすら できなさそうだ。 しかも、正規の道ではないのかカーナビにも道が写っていない。 ついでにその道の入り口の脇には上半身部分が欠けてなくなった道祖神のような石像があり、 更に不気味さを演出している。
「…ほんとに進むの?」
B美が不安そうに聞いてきた。 俺も流石に不安になり「これはちょっと…ヤバくね?」と言った直後、突然Aが車を発進させ 問題の横道へと車を進めていく。
慌てて「おいA!ちょっと待てって!車止めろよ!」と肩をゆすったのだが、 Aはそれを気にもせずどんどん脇道へと入っていく。
B美もC子も軽くパニックになり、「ちょっとふざけるのはやめて!」と怒り気味に言っている。
俺はAの顔を覗き込んだのだが、Aの様子が何かおかしい。
目はうつろで表情もなく、これだけ周囲で大騒ぎしているのにそのことを気にする様子すらない。
…何かがおかしい、そう思った俺は咄嗟に体を乗り出し、クラクションを押しながら おもいっきりサイドブレーキを引っ張った。
『ビーーー!』
けたたましいクラクションと共に暗闇の中車が止まる。
「うおっ!?」と言い、Aが正気に戻ったのか、あたりをキョロキョロしながら 「ちょ…なんでこの道に入ってんの?????」と言い出した。
車は舗装された道から20mほど進んだところで止まっている。 俺とB美とC子は、Aに何考えているんだと、悪ふざけにもほどがあると言ったのだが、 A本人は自分が車を動かしたという自覚すら無いのか、「えっ?…えっ?…どうなってんの?」と きょとんとした顔で言っていて会話が全くかみ合わない。
するとその時、まだドリンクホルダーのところに置きっ放しだった全員の携帯が一斉に鳴り出した。 各々が携帯を確認すると全員同じ文章のメールが届いていた。
「¶???そのまま披 ケΤちょくしん、いそげ縺ッ縺・?・」
4人でメールを確認し合い沈黙していると、C子が「これ…どうなってんの…」と頭を抱えて 泣き出してしまった。 B美は耐えているようだが明らかに涙声だ。
また全員の携帯に一斉にメールが来る。
「k縺ョ・溘こっちにこい、∪縺・!!はやくしろ」
もう何がなんだか解らなくなったおれは、Aに「とりあえずもと来た道に戻ろう」と言った。
Aも「だよな、なんかこれは流石にやべーよ」と車をバックさせようとしたのだが、 ガリガリガリ!ギィィと音がしてクラッチを踏まずにギアを入れようとしたような、 変な音がするばかりで一向に車が後ろに進まない。
Aが「あれ?おかしいな、どうなってんだ???」と不安そうな顔で必死でシフトレバーを バックに入れようとしている のだが、どうしてもシフトレバーがバックに入らないらしい。
そうこうしていると、かすかに曲がりくねった道の先から何か音が聞こえてきた。
俺はAにちょっと静かにしてみてくれ、と言って窓を開けて耳をすましたのだが、 確かに何か聞こえる。遠すぎてはっきりとしないが、微かに シャン…シャン… と鈴を鳴らすような音と、複数の人が枯葉を踏んで歩く音が聞こえてきた。
何かがこっちに近付いてきている? B美が俺に「どうしたの?何か聞こえるの?」と不安そうに聞いてきた。 俺は「解らないけど、何か鈴の音みたいなのと足音みたいなのが聞こえてくる」と正直に答えた。もう一度Aに「まだバックできそうにない?」と聞く。
「無理っぽい、どうなってんだよ…」
この時、3人からは解らなかったようだが、俺は完全パニック状態になってしまっていた。
そして、何を思ったのか「音の正体を確かめてくる」と言って、3人の制止を全く聞かずに1人で 車を降りて走り出した。 パニックになると人は意味不明の行動を取る時があるというけれど、この時の俺はまさに それだった。
暫らく真っ暗な道を走っていると、鈴の音と足音が大きくなってきた。 そして、更に進むと10mくらい先に人影が見えてきた。
「なんだ、人じゃん」そう思い、声をかけようとしたが踏みとどまった。
理由は解らない、解らないのだが、その人影を見たときに異常に背筋が寒くなると言うか、 今まで感じた事の無いような悪寒と恐怖心を感じたからだった。
“それ”は白っぽい服を着た集団で棒のようなものの先に沢山の鈴が付いたものを持っていて、 それが歩くたびに鳴っているらしい。 人数は10人くらい。
ただそれだけなのだが、俺は“それ”を見たときに「あれはヤバイ」「近付いてはいけない」 「早く逃げないと」と心の底から感じていた。
今から考えると、外見上の何かからそう感じたのではなく、その集団の雰囲気とういうか 気配と言うか、そういうものが俺にそう感じさせていたんだと思う。 理屈じゃない。
とにかく俺は「ここから早く逃げないと」と後ろを振り返ると全力で来た道を走り出した。
車まで戻ると、俺はAに「シフトをニュートラルに入れて外にでて俺と一緒に車を押せ!」
B美には「運転席に乗ってハンドル持っててくれ!」 「理由は後で話すから2人とも早くしてくれ!」と錯乱気味に言うと、 俺もAと一緒に車を押した。
車がゆっくりと動き出した、後ろからは鈴の音が徐々に近付いてくる。
鈴の音が近付くたびに、俺はどんどん焦ってきて「もっと押せ、早く!」と怒鳴り声をあげていた。 車が10mくらい進んだ頃、車内からC子の悲鳴とB美の「何か良く解らないけど早くして!」という 絶叫が聞こえてきた。
どうも車の中に置きっ放しの俺達の携帯がさっきからずーっと鳴りっ放しでメールを受信し続けているらしい。
更に車を押し続けもう少しでもと来た道に出る所まで来た時、クラクションが大き鳴らされた。
俺とAがふと運転席のほうを見ると、B美がボロボロと涙を流しながら道の奥のほうを必死で 指差している。 俺とAが後ろを振り返ると、さっきの“それ”がもうすぐ側まで来ていた。
距離としては7~8mくらいだろうか。
全身の毛が総毛立つとはこの事を言うのだと思う、俺もAもB美もC子も今まで感じた事の 無いような恐怖心を感じていた。
俺とAは汗だくになりながら全力で車をもと来た道に押し出すと、大急ぎで後ろを振り返ることも無く車に乗り込む。そして、B美がそのまま物凄い勢いて車を走らせその場から逃げ出した。
車はさっき寄ったドライブインにたどり着いた。
俺もAもB美もC子も何かが吹っ切れてしまったように放心状態のため車内に漂う沈黙。
ふと、俺は自分の携帯が目に留まり画面を見てみた。 メールが37件も溜まっている。
中身を見てみると全てあの文字化けしたメールだった。
「ゆるさア#・障/ない」
最後のメールには確かに「ゆるさない」と読み取れる文字が書いてあり、背筋がまた寒くなった。
俺は3人にメールの内容を見ないでそのまま消すように言うと、朝になったら近くの神社で お払いしてもらおうと提案した。
その後、街中に戻りファミレスで朝まで時間をつぶし、俺達は近くの神社で御払いをして もらった。
結局あの集団の正体はわからない、そもそもなぜあんなメールが来たのか、何故俺達 なのか、あの集団が俺達に何をしようとしたのか全てが何もわからない。
お払いのとき全ての事情をありのままに話したのだが、神社の神主さんも、こんな話は 聞いた事が無いと首を捻っていた。
ただ、お払いが効いたのかその後俺達には何も起きていない。
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