笈神様

子供の頃の事です。

冬休みで祖父母の家に遊びに行った時の出来事でした。 

車で高速を通っておよそ5時間程。 いつものように、自分のお気に入りの携帯ゲームや、本等を前日に用意し、祖父母の家へと行きました。 

お婆ちゃんやおじいちゃんに会う事を楽しみにしていたのですが、家に着いた瞬間、

唐突に恐怖が訪れました。


 実家の家の構造は、まず塀に囲まれており、一箇所が門、もう二ヶ所がそれぞれ車庫と裏口に通じるようになっており、門を潜ってすぐ右側に庭、まっすぐ進めば玄関、となっています。 

私が凍りついたのは、門から入り、なんとなしに右側を見たからでした。

そこには、球体がありました。

まだ空も明るい午後5時頃の事です。 色は、見たはずなのに憶えていません。

触る勇気もありませんでした。 

何故かとても怖いんです。


悪寒が走り、膝が震え、恐怖に打ちのめされそうになりながら、親にしがみつき、父親に球体を指差し、言葉にならない言葉を発しながら、泣き出しました。  

ところが親には何も見えないようで、何故私が泣き出したのか解らず困っていましたが、何か大きな生き物でもいたんだろうという事で納得されました。しかしその時、玄関から出て私達を迎えてくれたおじいちゃんだけは、真剣な顔つきで私を見つめていました。 


小一時間程本を読んだりして暇を潰した後、夕食を食べる事になりました。夕食は子供が好きだから、という事でカレーライスでした。 勿論私も大好物なので、喜んで食べました。

しかし、やはりあの球体が気にかかり、心配でした。もちろん恐怖も。 

一人で早々に食べ終わらせ、気を静かにして落ち着くつこうと、2階へ行って寝転がり、本を読んでいると、おじいちゃんが来ました。 

おじいちゃんは静かに私の隣に座り、一言


 「○○(私です)ちゃん…笈神様(おいがみさま)が見えるのかい…?」


 笈神様。私はすぐにあの球体の事だと解りました。 

 「お…いがみさま?」 

「笈神様。庭に安置してある丸いボールがあったろう? あれの事だよ…」

 私にも解りやすいように、ボール等という言葉を使っていたのをよく憶えています。  

「笈神様は、この土地に代々伝わる神様でな…」 

 「何の神様なの?」

 「うーん…何もしない神様、かな。一応神様という事になっておるから、悪口は言えんが…」  


そう言って、おじいちゃんは私に笈神様のことを話し始めました。

笈神様は、人々に利益を与える事は何もしない神。

だが、人間が悪い行いをすると、それに見合うだけの天罰を降らせる。しかし人間が人間に対して悪いことをしても何も起こらない。 要するに人間ではなく、自然を守る神、という事になるのだろうか。

人間に対してではない悪い行いといえば、自然に対する事しかない。  

おじいちゃんも詳しいことは何も知らないそうだが、言い伝えによれば、何百年も昔から、笈神様を見る事が出来るのは数少ない人間のみで、笈神様もその数だけ存在するという。  

見える者はそれを祀り、管理しなければならない事になっているという。また、この話は、この地域の人間は誰もが知っており、天罰を避けて悪い行いは全くしないという。


こんな話でした。 

なんだそりゃ…理不尽な神様だなあ。なら。

 「そんな神様、私が倒してやる!」 


私は倉庫から金槌を持ち出し、未だに庭に見える神に近づいていきました。そして思い切って、真上から振り下ろしました。 


「ドゴゥォォォォォォォォオオオオオオオオオオン」


直撃する瞬間、物凄い音がして、それと同時に臭い臭いが漂ってきました。 

音に気付いたおじいちゃんが、凄い形相で走り寄ってきます。

私は呆然とその残骸を見詰めていました。 


そこには、真っ二つに割れたカプセルと、半分ミイラ化した、茶色い死体が入っていました。  


その死体は他の人にも見ることは出来たらしく、警察も来るおおさわぎになりました。 

後で聞いた話によると、その死体は凡そ60年前の子供の死体だといいます。しかし、何故こんなにも保存状態が良かったのかは判らなかったらしいです。 

おじいちゃんにこっぴどく叱られましたが、おじいちゃんの話によれば、保存状態が良かったのはカプセルのせいかもしれない、という事でした。


もしどこかで笈神様の様な、謎の形をした畏怖を感じさせる存在にあった時。

もしかしたらその中に、何かが入っているのかもしれません。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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